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シリアからきたバレリーナ

 

アーヤは、今、ママとまだ赤ちゃんの弟のムーサと共にイギリスにいる。シリアのアレッポから逃げてきたのだ。だが、逃げる途中で書類を失くし、ママが英語が話せないせいで、難民認定が進まない。このままではイギリスにいられなくなるかもしれないことに怯えている。アレッポにいた時は、医師のパパに守られ、バレエに夢中の毎日を送っていた。だが、突然の内戦の勃発。ちょうど妊娠中のママに赤ちゃんが生まれるまで動けない中で逃げ遅れ、最後の最後でやっと街から脱出を果たした。連日通う申請手続きのコミュニティセンターの2階から流れてきたバレエ音楽に誘われて思わずのぞきに行くと、ちょうど女の子たちのバレエ教室の真っ最中だった。思わず外でこっそり踊っていたところを先生に見られたことがきっかけで、無償で教室に通えることになった。あけっぴろげで明るいドッティに救われるが、同時に気軽にくれたレオタードにひけめも感じる。そしてキアラは、アーヤを「難民」とよび、彼女の優遇に批判的な立場を崩さない。少しづつわかってくるアーヤのたどってきた道のり。だが、ドッティが有名なバレリーナの母を持ちながら、バレリーナではなくミュージカルを希望しているために母と対立する悩みを抱えていることを知り、アーヤとドッティは同じ女の子同志として励ましあう関係になっていく。そして受け入れてくれたミス・ヘレナもまたナチスに追われたユダヤ人の女の子として、たった一人でイギリスにたどり着いたことを知る。魅力はやはりバレエとの関わり、とりわけバレエ学校のオーディションや、最後の舞台で踊るシーンがとても魅力的。かわいそうな難民の女の子ではなく、バレエが大好きな、ごく普通の女の子としてのアーヤが魅力的に描かれている。

それにしても、難民がいなくなる世界はいつ訪れるのか?