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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

目で見ることばで話をさせて

 

11歳のメアリーは想像力が豊かな女の子だ。1805年アメリカのマーサ・ヴィンヤード島に住んでいたメアリーにとって、手話は当たり前のものだった。島ではろう者が多く、自分も父も耳が聞こえない。口で言葉がしゃべれる人も、常に手話で同時に話すのがふつうだ。そんな島に研究者だというアンドリューがやってきた。島でろう者が多い原因を突き止めるのだというアンドリューはぶしつけで、ろう者がしゃべっているとき通訳者の方ばかり見て話しかける(島ではこんな不作法なことを誰もやらない!)。少し前、メアリーの兄が亡くなったが、その原因は自分が兄とふざけていたから事故にあったのだと、メアリーは悩んでいて、母もその事件からなかなか立ち直れないでいる。微妙な家の中の空気を感じながら、アンドリューの怪しい行動を友人ナンシーと見張っていたメアリー。だが、ある日メアリーは、アンドリューに拉致されて島から連れ去られてしまう。ろう者の生きた標本として。ろくに食べ物も与えられずに、宿の下働きをさせられ、誰一人メアリーの手話を理解せずに、手話をあざ笑う。絶望的な思いの中、アンドリューに連れられていった家では親切な扱いはしてもらえるが、手話は理解されない。アンドリューは島のろう者の多さについての学説を発表して名をあげることだけに取りつかれていて、耳が聞こえない人間はまともではないと切り捨てて見向きもしない。アンドリューに連れていかれた家の老博士に手紙を書くチャンスを得て真実を伝えることができた。しかも、島の関係者らしい人間が探しに来てくれている。博士は、脱出を助けてくれ、島への船に乗船が成功。だが、「標本」を取り戻そうとしたアンドリューは、船で追いかけてきた・・・。前半の、ごく普通に暮らすメアリーの生活が、島から出たとたんに言葉を理解されずに悪夢に変わる様子に恐ろしくなる。これは、実際にあった島を舞台にした物語。人数が多くいれば自然に共生が可能になるのに、少数だと無視して迫害するのが私たちなのか? 現在にもつながる問題をきちんと受け止めなければ受けないと思う。