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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

「幸せの列車」に乗せられた少年

 

児童書とは言えないかもしれないが、8歳の男の子の視点で描かれた物語には、きちんと子どもの気持ちが描かれている。アメリーゴはナポリの貧しい地域で母親と二人で暮らしている。兄がいたが病気でなくなり、父は運を求めてアメリカに行って音沙汰無し。北部と南部の連帯のために共産党が企画した1946年の「幸せの列車」、それは南部の貧しい家の子を、南部の余裕のある家にあずかってもらい、そこで暫くくらして健康を取り戻し、学習の基盤を作れるように手を貸そうという企画だった。だが、反共的な一派は、列車に乗せると、ソ連に連れていかれる、子どもを取られる、腕を切られるなどと反対し、アメリーゴも不安でならない。不安を紛らわすために、彼が行う穴の開いていない靴を見つける遊びが、この作品の重要なモチーフになっている。到着した北部の家は、彼を暖かく迎えてくれた。十分な食事、里親の愛情、好奇心で近寄ってくる年の近い三兄弟。そして、アメリーゴが憧れていた音楽の世界がそこにあった。楽器職人の里親の父は、彼のために子ども用のバイオリンを作成してくれ、レッスンを受けさせてくれたのだ。だが、そこは仮の宿、ナポリに帰る日が来た。そこで待っていたのは以前の日々、靴屋に徒弟にいかされ、ヴァイオリンは取り上げられた。そしてヴァイオリンを母が暮らしのために売ったことを知った時、アメリーゴはついに家を飛び出し、北部の家へ向かう。二つの世界を知ってしまったのは良いことだったのか? 悲劇だったのか? そして最後は約50年度バイオリニストとして成功したアメリーゴが、母親の死を契機にナポリに戻ることで結ばれる。今なお残るイタリアの南北問題。実際に行われたこの列車の史実をもとに描かれた物語には不思議な余韻が残る。