児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

平和ってなんだろう 「軍隊をすてた国」コスタリカから考える (岩波ジュニア新書)

 

平和国家であることをウリにして、外交努力を続け、軍隊放棄と非戦を保っているコスタリカ。実際にどんなことをしているのか? なぜそんなことができたのか? と実際にコスタリカでも暮らしてみた著者によるノン・フィクション。内戦が耐えない中米の中で、貧しくて外国からの援助も必要、そんな中で、とても軍備にお金をかけられないという現実がまずある。戦争の危機はなかったわけではないが、内戦をしたら生きていけない、という国民の総意が内戦や戦争を抑え込み、どこにも(東西どちらにも)属さずに、アメリカ的な理想を前面に出す(公平な選挙による決定)ことで近くのアメリカの戦争に巻き込まれるのを巧みに避けていくのは立派。ただ、最後にあったが、男性中心的な価値観の社会の中での男女平等の問題などは、ホントこれからの課題でしょう。“民主主義”といいつつ女性や奴隷の参政権がなかった古代アテネみたいに、実は・・・という点があってほしくはありません。ちなみに2009年の出版。荒れる現代社会の中で、その後どうなっているのか心配です。 

伝えるための教科書  岩波ジュニア新書

 

伝えるための教科書 (岩波ジュニア新書)

伝えるための教科書 (岩波ジュニア新書)

  • 作者:川井 龍介
  • 発売日: 2015/01/21
  • メディア: 新書
 

”教科書”と銘打っているが、実際授業や学習の副読本になりそうな本。個人的には「理解不測のことは伝わらない」という章だった。あたりまえだけどそのとおり。自分でもわからないことをうまく伝えることなどできません。10を調べて1を書けという姿勢とそのための資料の当たり方やインタビューのやり方へのアドバイスも書いてある。最近、論理的な文章を書いたり読んだりすることの重要性が指摘されているが、それよりもう少し守備範囲は広く、実用的だが、マニュアルというより心得的な面が強い。即効性よりも実力をあげることを重視していると言えると思うので、文章力をあげたい人は、入試直前ではなく余裕のあるときに読んで自分なりに練習してみるのがよさそう。 

ショパン 花束の中に隠された大砲 岩波ジュニア新書

 

残念ながら音楽の素養がない私はショパンの曲と言われてもよくわからないのだが、在日2世である著者が自分自身が留学しようとしたときに、再入国許可を得られないという体験をした経験から理解していく過程が胸に迫り、惹きつけられた。ショパンを語る場合欠かせないのはポーランドの問題。他国に分割される、それに抗議の意を示したことで帰国を阻まれ、家族と引き裂かれた。異国でポーランドの魂を伝えようとしつつも、一つ一つの選択が正しいことなのか迷いぬくことになるショパンの悲劇。それは、在日の著者やその他の世界中にいる異国に生きる人たちの苦悩と重なる。若い時から天才として評価されつつも、歴史の中で翻弄され、最後は心臓を故国に持ち帰って欲しいと願うショパン。自分がピアノをやっていたり、音楽に詳しい子だと、具体的な曲のイメージが浮かびさらに楽しめるだろう。 

沖縄からアジアが見える 岩波ジュニア新書

 

沖縄からアジアが見える (岩波ジュニア新書)

沖縄からアジアが見える (岩波ジュニア新書)

  • 作者:比嘉 政夫
  • 発売日: 1999/07/19
  • メディア: 新書
 

タイトルどおり、沖縄とアジアのつながりについて考察した本。本格的な入門書で中学生だと、こうした問題に関心がないとちょっと難しく感じるのではないかと思う。中国大陸との関係で三十六姓という中国から来た持つと言われる家のルーツが実際に中国で見つかる話や、東南アジアとの共通点、海洋の民であるために海の干潮と関わる月の満ち欠けを意識する文化、女性が霊力を持つ(妹が兄を守るなど)など興味深い。ただ、急速に古い信仰やしきたりがうしなわれつつあるので、現在の沖縄ではすでに失われたり観光行事になってしまっているものもあるのでは、と感じた。また、これは沖縄からアジアを見る視点だが、たとえば弟が他人にそそのかされて美しい姉を呼び出すと、姉が驚いて身を隠したという沖縄の物語と天の岩戸の神話の類似性をあげているが、日本もまたアジアと結ばれた果ての島国であることも思わされた。 

生活環境主義でいこう! 琵琶湖に恋した知事 岩波ジュニア新書

 

 琵琶湖と人間の暮らしのかかわりを調べる社会学の視点から長年フィールドワークを行っってきた嘉田氏。調べる中で、同氏は自分たちの暮らしを守るために、自分たちの手で地域の水や自然を守るシステムを完成させていた地域の人々の手から自治体や国が川や湖の管理の担い手となっていった変遷の過程を理解する。それで良い面ももちろんあったが、それぞれの地域の事情を知らない施策によって伝統的な生活の知恵が消えたり、環境を守る生活から壊す生活になってしまったこともあることに気付く。水害はない方がよいが、絶対に無くすことは難しい。だからこそ琵琶湖の近くでは、水害を前提に、いかに被害を無くすかを考え、被害があっても地域の人の手で復旧し、その復旧工事の賃金が貧しい人の暮らしを助ける仕組みを巧みに作っていた過去の知恵にも気付く。地域を再発見するためのホタルダスというホタルを観察するプロジェクトなど、多くの人を巻き込むアイディアなど実践的な活動を続け、ついに県知事の職に就く。こういう地域を歴史を含めて良く理解した人に県知事を得られた滋賀県は良かったと思うが、それは、逆に言えばちゃんとそういう人を県知事に選んだ県民の偉さでもあろう。自分の足元にはどんな生活の知恵があったのか、今ならまだ、高度成長前のことを直に聞ける人がいるから、実際に調べるきっかけになって欲しい。

自然災害からいのちを守る科学 岩波ジュニア新書

 

 自然災害について、例えば地震発生のメカニズムや震度などの情報が要領よく記述されているので、調べ学習でも参考資料として使いやすい。いわゆる地震・火山などの災害に加え、台風や竜巻のような気象災害についても説明が詳しい。ただ、ここ数年特に洪水等の気象災害が頻発して警報の種類や表現が変わっていると思うので、気象庁のサイトなどで一部情報を確認した方がいいところがあると思われる。自然災害は複合的に悪化する場合があること(例:地震で土砂が川をふさいだところに雨が降ると洪水など)も書かれており、注意を喚起してくれている。「いのちを守る」とはあり、自分で防災地図を作ろう、チェックリストを作ろうなどの提言はあるが、1人ではできそうでなかなか取り組めないもの。学校などで、他の本と組み合わせ乍ら防災教育の資料として活用すると良いかと思われる。

5アンペア生活をやってみた 岩波ジュニア新書

 

5アンペア生活をやってみた (岩波ジュニア新書)
 

 3.11の東日本大震災の時に朝日新聞郡山支部福島県で勤務していた著者は、直後白河市の大規模地滑り現場に取材で向かいます。10棟が埋まり13人が生埋めという悲惨な現場。ところが、全体の被害のすさまじさに原稿は掲載されませんでした。そして徐々に明らかになる原発事故による放射能被害。まもなく東京支部に転勤になった著者は、しだいに節電が忘れられていく中で、電気を極力使わずに生活できないかと考え始めます。通常の家庭なら40アンペアのところ5アンペアで暮らすことを決めますが、それでは炊飯器もエアコンも電子レンジも使えません。大丈夫か? と不安になりながら、手さぐりで電力を多く使う家電は何か? 代わりに使えるものはないか? と試行錯誤を重ねていきます。まわりから過剰に褒められたり、逆に手ひどく批判されたりしながらも、自分がゲーム感覚で楽しく節電することを大切にする感覚がとてもすてきです。特別な変わり者ではなく、誰もが自分のできる範囲で、生活を見直すことで、自分の生き方を自分で決めていくことができるのだ、とを教えてくれる本です。