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生活環境主義でいこう! 琵琶湖に恋した知事 岩波ジュニア新書

 

 琵琶湖と人間の暮らしのかかわりを調べる社会学の視点から長年フィールドワークを行っってきた嘉田氏。調べる中で、同氏は自分たちの暮らしを守るために、自分たちの手で地域の水や自然を守るシステムを完成させていた地域の人々の手から自治体や国が川や湖の管理の担い手となっていった変遷の過程を理解する。それで良い面ももちろんあったが、それぞれの地域の事情を知らない施策によって伝統的な生活の知恵が消えたり、環境を守る生活から壊す生活になってしまったこともあることに気付く。水害はない方がよいが、絶対に無くすことは難しい。だからこそ琵琶湖の近くでは、水害を前提に、いかに被害を無くすかを考え、被害があっても地域の人の手で復旧し、その復旧工事の賃金が貧しい人の暮らしを助ける仕組みを巧みに作っていた過去の知恵にも気付く。地域を再発見するためのホタルダスというホタルを観察するプロジェクトなど、多くの人を巻き込むアイディアなど実践的な活動を続け、ついに県知事の職に就く。こういう地域を歴史を含めて良く理解した人に県知事を得られた滋賀県は良かったと思うが、それは、逆に言えばちゃんとそういう人を県知事に選んだ県民の偉さでもあろう。自分の足元にはどんな生活の知恵があったのか、今ならまだ、高度成長前のことを直に聞ける人がいるから、実際に調べるきっかけになって欲しい。