児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

おいで、アラスカ(2021課題図書 中学生)

 

 スフェンは、新しい学校に不安を抱えている。正体がばれる前に、なにかやらかしてそれで有名になりたいと思いながら中学校に向かっていた。パーケルも悩みを抱えている。だが、中学1年の初日に転校生の男の子スフェンに、犬の鳴きまねをしたことをネタに嫌味なあだ名をつけられ、激怒した。おまけにその子はパーケルが以前飼っていて大好きだった犬アラスカの新しい飼い主だとわかり、納得がいかない。弟の犬アレルギーのせいで手放したアラスカは、介助犬になったというのに! 二人の視点で交互に物語は進む。そしてスフェンはてんかんの発作という持病、パーケルは両親の店が強盗に襲われ、その時撃たれて以来、父親が店に行けなくなってしまったというそれぞれの悩みを抱えていることが次第にわかってくる。アラスカと会いたいばかりに、夜に正体を隠すために覆面をかぶって侵入したパーケルは、思いがけず深刻な悩みに苦しむスフェンの素顔を知ることになる。だが、学校で発作を起こしたスフェンのようすを生徒が動画で撮り、それがみんなにまわったことでスフェンは登校を拒否するようになる。そして正体を隠していたパーケルにも激しく反発する。だが、アラスカという絆とある事件がきっかけで二人は力を合わせて立ち向かうことになる。徐々に謎が明らかになるワクワク感や介助犬であるアラスカの魅力など、読者を物語世界にひっぱっていく力がある作品。発作をおこした同級生を動画で撮るむごさも、伝わって欲しいと思う。

オラウータンに会いたい(2021年課題図書 小学校高学年)

 

オランウータンに会いたい

オランウータンに会いたい

 

オラウータンの研究者によるオラウータンの生態を紹介している本。誠実に書かれているが、淡々としていて」本を読む習慣がないと子だと、飽きるかもしれない。フィールド観察のようすなどが描かれて、群れを作らない霊長類という特殊な暮らしぶりやそうなった背景などが語られる。淡々としているように感じた理由は、日誌記録の要点という感じで著者の心の動きがあまりないからかもしれない。2人の子育てもした女性研究者だということがわかるが、そのプライベートな大変さもほぼ触れられていない。ジャングルでオラウータンを追いかけていくことと仕事で給与をもらうことが読んでいてうまく結びつかなかった。オラウータンは現在絶滅に直面していて、それについても最後で紹介されているが。ジャングルが失われたことと、私たち日本の暮らしが関係していると言うことなど、重要であるが、この複雑な問題をどのようにとらえるべきかも深くつっこまれてはいない。これで感想文を書くとしたら、自分でもオラウータンについて調べて、それと絡めたり、熱帯雨林の開発問題と絡めて進めていく感じがよいかも。 

エカシの森と子馬のポンコ(2021年課題図書 小学校高学年)

 

エカシの森と子馬のポンコ (teens’ best selection)

エカシの森と子馬のポンコ (teens’ best selection)

 

 誕生年より計算すると、著者は87歳! 高齢だから物語が書けないということはないし、高齢だから名作とも言えないので、できるだけ客観的に評価したいと思うのですが、正直、私には理解不能でした。全体的にイメージで描かれている感じで、場面や背景が具体的に浮かびません。一応まとめてみると、北海道の乳牛牧場で生まれたポンコは、自由になりたくて牧場を飛び出し、ガガイモのタネやハリニレの大木エカシカメムシなどと交流して成長していくというお話し。でもこれいつの時代? 車とかあるし現代と思われるけれど、全体に昭和っぽい。ポンコはなぜ乳牛牧場で飼われていたの? ポンコのお母さんは、ポンコの出産のときに死んだらしい、なら牧場の人が人工栄養で苦労して育てたと思われるけどそれらしいこは書かれていない。現実に、子馬が群れも親もなくて、北海道の大自然の中で暮らせるの? ポンコ発情が始まっているっぽいけど、自由を求めてというより発情してうろついてるだけ? そしてアイヌの歴史がはさまれるけど、そこも深く展開しない。というわけでリアルな感じがしない。木や虫と交流するなら、鹿との交流があっても(種も近いし)あってもよさそうなのに、鹿は登場しても背景のよう。全体がとりとめないので、これで感想文を描くとしたら、イメージにのせて描く(例えば、北海道の広い大地の中の一本のハルニレに、ポンコは導かれていきます。私もこの大きな木のイメージを心に浮かべれば、まっすぐに進んでいけそうな気がしました、みたいな具体性が少ない感想)しかないかも。イメージ力のある方は、もっと別な感想が持てるのかもしれませんが私には無理です。

ゆりの木荘の子どもたち(2021年課題図書ゆりの木荘の子どもたち(2021年課題図書 小学校中学年) 小学校中学年)

 

 100年以上前に建てられたゆりの木荘。今は改修されて有料老人ホームになっています。ところが、昔のゆりの木荘から残された立派な柱時計が急に逆に回り始め、きがついたら昭和16年8月3日というカレンダーがかかっていて、入所していたお年寄りたちはみんな子どもに、しかも昭和16年の時の年齢の子どもに戻っていました。でもなぜこんなことが? そのうちサクラさんが、この家を知っている気がすると言い出します。そして、子どものころ夏休みに遊びに来てやはり遊びに来ていたカズミちゃんと共に、ここでふしぎな女の子と出会いある約束をしたことを思い出しました。キイワードは昭和16年。そう、この年の12月に太平洋戦争がはじまり、サクラさんはここに戻ることなく過ごして来たのです。カズミちゃんとあったのもこの16年が最後で、カズミちゃんは広島の家に帰って行きその後はわからないとさりげなく書いてあるのを見ると、ヒロシマというキイワードから正直悲劇も連想しますが、あえてそのことを追って書いてないところがさすがです。登場する子どもになったおばあさんやおじいさんたちが生き生きしていて、元の時間に戻ってからも元気なところに勇気づけられます。失われた記憶を取り戻し、謎が解けるか! 楽しく読み進められる物語。

わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話(2021年課題図書 小学校中学年)

 

 岩手県葛巻町立江刈小学校での実践をもとにした本。著者は虫をテーマとした作品を発表しているフォトエッセイスト。特別な産業はないけれど堅実に暮らすこの町では、カメムシが越冬のため屋内に入って来る。臭いにおいを出し、農作物を荒らす害虫としてみんなに嫌われているカメムシだが、児童わずか29人という町の小学校の校長先生はカメムシと一口にいっても様々な種類がいることに気が付いた。「よく見ると、形や色が違う。私も知らないけど、みんなで一緒に調べましょう。」と校長先生が提案。調べ始めると、次々にいろいろな種類が見つかりました。しだいにみんなは夢中になりカメムシについていろいろ調べ始めます。「カメムシはぼくらの宝もの」と言った子どもの言葉から、校長先生は自分たちのカメムシずかんを作ることを思いつきました。名前が間違っているといけないと、できた図鑑を専門図鑑の出版社に送ると、研究者がとても喜んで学校に来て子どもたちと話をしたいと言ってくれました。思いがけない研究者との交流、そして子どもたちが意欲をもってカメムシ研究にますますはりきるラストが魅力的です。それまで見過ごしていた小さなことの再発見で新しい世界が広がる喜び、などをネタにしたり、実際にカメムシをさがしてみたりして感想文にもっていけるかもですね。オマケですが、イラストで見ると校長先生は女性だったようです。女性だって虫が嫌いではないことがわかりますよね!

カラスのいいぶん 人と生きることをえらんだ鳥(2021年課題図書 小学校中学年)

 

 著者はカラスについての専門家ではないが、生物・環境など自然科学系の著作がある。内容は、著者が実際にカラスに頭の上に糞を落とされたり、生協で購入し玄関先の箱に置いた卵を盗まれたりという体験をしたことをきっかけに、当初は憤っていたけれども、徐々に興味を抱くようになり、カラスの生態を観察したり調べたりしたことをエッセイ風に書いた本。カラスの行動の意外性がとても面白く、この本を読んでカラスに興味を持って観察を始める子が出るのではないかと思った。読書感想文を書くとしたら、実際の自分の観察体験をからめるとか、鳥を飼っている子なら自分の飼っている鳥と、この本で描かれているカラスの行動を比較するとかをネタにすると書きやすそう。ただ、残念なのは観察が個人的な体験の範囲内なのでちょっと物足りなかった。最後は、家を引っ越したせいでそれまで付き合いがあったクロスケと別れてしまって終わり、という終わり方。興味がでて、運よく交流ができ、でも縁が切れちゃった・・・的な展開が残念。カラスの生態についての部分が専門家や関係者とも交流して厚みがもう少し出たらよりおもしろかったのでは? 小学校中級向けで4類ではなく、エッセイと位置付ければこれで良いのかもですが。

ぼくのあいぼうはカモノハシ(2021年課題図書 小学校中学年)

 

ぼくのあいぼうはカモノハシ (児童書)

ぼくのあいぼうはカモノハシ (児童書)

 

 ルフスはドイツに住む男の子、サッカー帰りに動物園の側のバス停で不思議な動物に出会う。新種の動物発見と喜ぶが、あいにくカモノハシでオーストラリアに住む動物だと自己紹介された。なんと、このカモノハシは言葉がしゃべれるのだ! ルフスのお父さんは今、オーストラリアで仕事をしていてなかなか会えないのでとてもさびしい。とりあえずカモノハシは、他の人がみたらぬいぐるみのふりをすることが決まり、ルフスの家に一緒に行き、オーストラリアまで帰る計画をたてることになった。木に登ればオーストラリアが見えるかも、バスでなんとか行けないか? カモノハシにそそのかされ、ルフスはいろいろと試しては叱られるが、最後はついに飛行機の密航を成功させてオーストラリアでお父さんと再会する。さすがに飛行機密航は無理が・・・とも思うが、妙に自信あふれるカモノハシにそそのかされて、ルフスが始める冒険が楽しい。そして、本当にお父さんに会いたくてたまらないルフスの思いもよくわかる。ファンタジーのようなリアルのようなこの設定のさじ加減がなかなかおもしろい。カモノハシをどう感じていくかで、読者はいろいろと楽しめると思う。