児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

アリスとふたりのおかしな冒険

 

アリスは11歳の女の子。大好きなママは死んでしまった。パパのことだって大好きだけど、パパは売れない俳優で、仕事だといってあちこち出歩くばかりであてにならない。同居している画家のおばさんは、元気のないアリスを心配して、スコットランドにある湖の近くの寄宿学校への進学を進めてくれた。友だちと自然に囲まれた生活をした方がいいと考えてくれたのだ。学校に向かう途中で出会ったまじめな男の子ジェシーや、学校についたとたんにアリスを転ばせたファーガス! それぞれ欠点はあるけど、二人と徐々に仲良くなる。だが、パパから謎の小包が送られてきて、小包をもって島で会おうと手紙がきたアリスは、ジェシーとファーガスを巻き込み、大オリエンテーションを利用して飛び出してしまう。それぞれが、ついつい利己的な行動を取ってしまうところは、意外とリアルかも!

ローワンと魔法の地図

 

リンの谷の水が枯れてしまった。村の若者たちは、原因をさぐるために竜がいるという水源の山に向かう。気の弱いローワンはそんな冒険は願い下げなのだが、なぜか魔法の地図は、ローワンがいないと図が現れない。道を進むごとに地図に現れる予言。はじめは7人もいたのに、一人また一人と先に進めなくなっていく若者たち。ついにローワンはたった一人で竜と向かい合うことになる。ゲームっぽい展開だが、その分ゲーム好きの子に勧めやすそう。

同志少女よ敵を撃て

 

本屋大賞も受賞し、読まれているのをうれしく感じる本。児童書として出たわけではないけれど、あきらかな成長物語で中高生に薦めたい。

農村で生れ、害獣駆除のために銃を習ったセラフィマ。だが、戦争がはじまりドイツはソ連に侵攻してきた。幼馴染で気が優しいミハイルは、その優秀さゆえに進学したが徴兵されたという。そして辺鄙なこの村までドイツ兵がやってきた。セラフィマと母が猟から戻った時、村人はドイツ軍に処刑されており、とっさに発砲しようした母も、逆にドイツ兵に撃たれて殺さる。逃げようとしたセラフィマもドイツ兵に囲まれてレイプ直前となったが、ソ連軍に救われた。兵を率いた女性兵士イリーナに、復讐を望むかと誘われ、女性だけの狙撃兵への道を歩み始める。家族を失った少女たちが集められた学校での厳しい訓練。ついに始まる実戦、転戦しながら直面する戦場の過酷さ。そしてスターリングラードの包囲戦、要塞都市ケーニヒスベクと戦いは続く。少女の復讐劇と戦場で生まれる友情路線、と予想した物語は、途中からまさかと思う展開に!  スナイパー同士の駆け引き、そして「敵」とは? 

(この後は、少しネタバレ要素あり!)

ちなみに、私はこの作品でレイプが戦場でおこる理由を理解して愕然とした。ストレスの反動、とイメージしていたが、それだけではなく輪姦することで男たちが仲間意識を高めるという構造。男性だけのゆがんだ社会の悪は、戦場以外の場所でも存在する。まさしく、同志少女よ敵を撃て!です。

クヌギ林の妖怪たち 童話作家・富安陽子の世界

 

斉藤洋が、富安陽子が日本児童文学新人賞を受賞した『クヌギ林のザワザワ荘』を読み解き、さらに富安陽子と対談をしている。自分も児童文学作家だけに、評論というより世界の作り方を見ているような感じで、とても面白い。そして、素直に不思議な世界に入っていく富安陽子の資質が見えてくる。改めて作品をみていくと、富安陽子の作品が、きっちりと世界ができていることがよくわかる。そして、それとは少し違うアプローチをする斉藤洋の個性も見える。斉藤洋富安陽子のファンだったら、絶対に楽しめると思う作品。

レーナ

 

裕福な黒人が多く住む地域に住む貧しい白人の家のレーナ。貧しく、母は死に、父から性的虐待を受けているという追い詰められた状況だ。マリーは黒人だが裕福な家の娘。とはいえこの地域から出れば、黒人と言うだけで蔑視の視線が投げかけられるのを知っている。そして彼女の母は家を出た。レーナとマリーの間に生まれる人種を超えた絆に希望を感じる。

ジークメーア 小箱の銀の狼

 

母と二人で暮らすジークメーア。時間によっては入口が海中に消える洞窟で、隠れるように住んでいるが、治癒や予言の力がある母のおかげで、暮らしには困らず、村での扱いも丁寧だ。暗闇でも見える目のおかげで、洞窟暮らしに不自由はない。だが、ある日、海賊退治にやってきた百人隊長ランスと出会い、彼に暗闇でも目が見えることを悟られてしまう。母からランスについていけと言われ、ランスに連れられてザクセン王の元に向かうことになる。マーリンの予言により、ふくろうの目を持つ子どもがフランク王をたおすというのだ。ジークメーアは、そこで小箱の銀の狼というもう一つの予言を実現させるために動く。謎があり、戦いがあり、対立や恩返しがありと、ヒロイックファンタジーとしてまとめてあってそれなりに読めるが、あきらかにシリーズ第1作。これからどうなるのか?

さよなら「いい子」の魔法

 

生れた時に妖精から「従順」という贈り物をもらったせいで、命令形で言われた事には何でも従うように体が動いてしまうエラ。だが、しろと言われたことをやめられないのは、場合によってはキケン! 少しでも抵抗しながら従うすべを身に着ける反抗的な娘に成長する。ところがその弱みを、ママ母と義理の姉妹にしられてしまった。これはもう一つのシンデレラ物語。従順で優しいシンデレラって、実はこういう事情があったのかも(笑)。この呪いにいかに打ち克つかもだけど、何と言っても巧みな抵抗姿勢に共感してしまいますよね。