児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

グリーン・ノウのお客さま

 

冒頭のアフリカでのゴリラの暮らしから、一気にゴリラの子が捕らえられてイギリスの動物園に送られた後の姿で、ゴリラのハンノーが失ったものがよくわかる。そのハンノーと出会ってしまった難民の孤児ピン。ピンは、飼育長さんからゴリラについて説明してもらうが、具体的なこの説明が、後半のハンノーの脱出とそれを支えようとするピンの行動にリアリティをもたらしている。夏休みに川や森がある古いお屋敷グリーン・ノウに招待してもらったピンは、その森で動物園を脱走してきたハンノーと出会う。単純になかよしになるのではなく、危険も感じながら注意深くふるまうピン。親切なグリーン・ノウのおばあさんに本当のことを言えない苦しさ。そして、ハンノーに餌を与える難しさと、悲劇的な最後までが、本当にあった出来事としか思えない迫力で描かれる。派手ではないが、忘れがたい魅力を持つ作品。

アシハヤ イコロイ・インディアンに残された物語

 

横書きで字が中心なので低学年の子が自分で読むには向かないかもしれないが、読んであげれば5歳くらいから理解して楽しめる。昔、部族同士の争いが絶えず、戦闘で人が死ぬと、その復讐の連鎖が断ち切れない状態が続いていた。やっと偉大な平和が訪れたが、一部の者は、戦争が続くことを願っていた。そしてやっと偉大な平和が訪れたのに、それに不満を持つ若者が存在していた。そして他の部族をたずねて行った若者が行方不明になる事件が続く。村の長老と知恵あるグラン・マザーは相談して、勇気のあるものを募るが誰も名乗り出ない。そんな中「足早(アシハヤ)」と呼ばれ、両親を失くして、祖母と暮らす年若い少年が、その要請を受ける。父の弓と祖父の帽子をかぶり、祖母の作ってくれた4足のモカシンと保存食を入れた巾着(ポウチ)を持ち、子犬と共に出かける。アシハヤは巨大なクマの姿をしたニャグワに襲われるが、ひるまず「見つけたぞ! もう逃げられないからな!」と言ってひたすら追うと、ニャグワは逃げていく。4足のモカシンを履きつぶして追い続けたアシハヤは、ついにニャグワを倒し、骨になった若者たちを生き返らせた。いまや立派な若者になったアシハヤは故郷に帰る。シンプルな英雄物語で、読んでいて気持ち良い。

空から見えるあの子の心

 

エイプリルは小学校6年。友だちといるのが得意ではない上に、友人だったジェリーが夏休みの後に、急にオシャレになってかわってしまったので、一人でランチを食べるのが嫌で「ともだちベンチ」係を志願した。昼休みの校庭で、友だちがいない子の相手をするのがその役割だ。そこでであったのがジョーイ。誰とも遊ばずに、校庭でひっくり返って空を向いている。校庭をやたら歩き回ることもある。字を読んだり書いたりするのもできないといううわさのある4年生だ。「ともだちベンチ」係でペアになった4年生のビーナはインドからの転校生。まじめだが、インド人は学校でたった一人という中で、やはりちょっと心配になる。気になるとのめりこんでしまうところのあるまじめなエイプリルと、なぜそういう行動をするのか周りに理解されないジョーイ。だがある日、ふと足を引きずるように校庭を歩き回るジョーイは、大きな絵を描いているのではないかと思いつく。そして、それは当たっていた。地上絵のサイトをビーナが見つけ、ジョーイに見せたことで、ジョーイは二人を受け入れる様子を見せてくれるが、みんなにその才能が知れ渡ることで、ジョーイは一気に人気者になるものの、過剰な期待も寄せられるようになってきた。はたして、何がジョーイにとって一番良いことなのか?混乱するエイプリル。ついに大切な試合の前のグランドに学校のマスコットの絵を描くことを依頼されるジョーイ。だが、ジョーイにはそれがよく理解できない。はたしてジョーイは何を描くのか? まじめで、なんでもつき詰める感じのエイプリルと、自分のやり方しかできないジョーイ。先が読めずになかなかハラハラさせてくれる物語でした。 

かしこいうさぎのローズバット

 

ある日、うさぎのローズ・バットが本を読んでいると、うさぎはおくびょうだと書いてありました。うさぎだってすごいぞ! と証明しようとくじらとゾウに力比べをもちかけます。頭を使って大きくて強い動物に勝つという定番の物語ですが、本を読み初めの低学年の子が気軽に読むにはちょうど良い感じ。

火星のライオン

 

火星のアメリカ入植地に暮らすベルは11歳の男の子。5人の子どものうち最年少だ。他には大人が6人、猫が1匹いる。火星には他にも各国の入植地があるが、リーダーのサイは、他国との交渉を立っている。理由は二つ、地球からの指示! 地球では今、南極の資源をめぐって紛争が起きているのだ。当初は本国からの指示にもかかわらず交流を続けていたのだが、あるとき同僚のリタが、他国の2人とでかけ、一人で死んだまま放置されるという事件が起こっってからきっぱり断行した。でも、ベルはそんな過去の交流は知らない。少し前まで仲良しだった14歳のトレイは、最近はサイに認めてもらいたがり、大人ぶって相手にしてくれないのが悩みだ。ところが、ある時トラブルが発生。補給船到着直後に、大人だけが次々に病気で倒れてしまった。地球に助けを求めても、次の補給船は8カ月後。トレイとベルは二人で他国の入国地に助けを求めに行くことになったが、途中バッテリー切れでトレインが止まり閉じ込められる。隙間から出られるのは小さなベルだけ、ベルはたった一人で助けを求めに走ることになった! 孤立した火星コロニーという設定は面白いが、SFとして見るとちょっとツッコミどころが多いかもしれない。未来なのに、登場している技術が、ほぼ今と一緒! でも一所懸命なベルが頑張るようすは感じが良く読めた。

赤い糸でむすばれた姉妹

 

ウェンは中国の孤児院で暮らしている。長年、自分を養子に迎えてくれる親に憧れてきたが、ついにアメリカにひきとられることになった。ただ、シューリンのことが心配でたまらない。ずっと親友で姉妹同然のシューリンは、足が悪い。もし養子にいったら、相手の親の面倒をみつける約束をしていた。

どんな暮らしが始まるのか不安でたまらないウェン。迎えに来たのは優しそうな青い目のママとちょっと太ったパパ。そして同じ中国人の養女の妹エイミー。車に乗ったのは生まれて3度目。飛行機は初めて! でアメリカに着いた。両親は優しく、妹も甘えてくるが、ウェンはできるはずの英語が一言も出てこないし、抱き寄せられるとビクっとしてしまう。家は立派で、自分の部屋の広さに驚いてしまった。食事はおいしく、おもわず後のためにとっておこうとすると、いっぱいあるから大丈夫と言われる。でも、もし孤児院に返されたらどうしようとビクビクせずにはいられない。自分の洋服もすばらしく、どの洋服も着たくて、学校の初日、3枚も重ねて着て行った。なんとか他の子と同じことをしたいとあせりながら、周りの子たちに圧倒されるけれどハナという女の子と仲良くなる。けれどシューリンのことが忘れられない。約束を果たしたい、だが、どうすればいいの? しかもお父さんが急にリストラされてしまった。自分だって中国に返されるかも。そしてシューリンを何とかしたいと訴えるウェンを妹のエイミーや友人のハナは、自分達よりその子がいいのか? という。しかも養子として迎えられる期限は14歳までなのに、シューリンはあと少しで14歳。異文化の中で混乱するウィンを辛抱強く理解して受け入れる両親や周囲の姿がすごい。作者は中国から養子を2人迎え入れた経験があり、それを元に書いたというが、なるほどと思うリアリティがある。日本だと、子どもを引き取って育てるというのはかなり特殊な事例になるのではと思うだけに、こうした積極的なアメリカの物語は刺激的。

小川は川へ、川は海へ

 

ネイティブ・アメリカンのサカジャウェイは、ミネタリー族に攫われ、さらにはフランス商人の妻となる。商人との間に生まれた子どもを抱きながら、アメリカ横断の旅の案内人を務めた実在の女性がモデルの物語。クラーク大尉と互いに好意を持つが、その愛は実らないことを自覚し粗野なフランス商人の妻でいなければならない現実を自覚している。聡明で、出自を誇っていきようとする姿が良い。