児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

本屋さんのダイアナ

 

大穴と書いてダイアナと読ませる。そんなとんでもない名前をつけた母親がうらめしいダイアナ。だけど小学校3年になった時、自分の名前を「『赤毛のアン』の親友はダイアナというんだよ」と名前をほめてくれた女の子がいた。彩子ちゃんだ。16歳で未婚の母になり、キャバクラで働いているママは、いつも能天気。アニメTシャツを勝手に買ってくるし、ランドセルはデコるし、髪は金髪に染められちゃう。クラスでは浮いていて友だちができず、ひたすら読書をしていたダイアナ。対して彩子の両親は豊かで質が良いものを娘に与えようという方針で堅実な子育てをしているから彩子の服はいつもシックで上質だ。だが、彩子にはアニメTシャツもキラキラのランドセルも魅力的でたまらない。正反対の家庭に育ちながら、互いに相手の家庭にあこがれ、相手を尊敬して親友として育っていく。だが、中学にはいる時、彩子は名門女子中を受験。ちょっとした誤解がもとで、二人は絶交してしまう。名門女子高でもしっかり者とされながら、街でみかけたダイアナに強く惹かれるのに気まずくて声がかけられない彩子。一方ダイアナもまた上品な雰囲気をまとった名門女子高生彩子に声がかけられない。そしてダイアナは、高校を卒業してなんとか大手書店のアルバイトにつき、自分の父親探しをはじめる。一方、彩子は名門大学に入りながら、早々にサークル・コンパでレイプされ、そのレイプを恋愛に変えようとその男と付き合う遊び人大学生となり、自分を見失っていく。子どもから大人へ、対照的な二人のガール・ミーツ・ガールに胸がときめく!

本おじさんのまちかど図書館

 

インド出身でカナダ在住の著者によるインドを舞台にした物語。ヤズミンは本が大好きな9歳の女の子。路上で本を貸してくれる本おじさんから毎日本を借りるのが楽しみでたまらない。しかもおじさんは、いつもぴったりの本を勧めてくれる。ある日、勧められた本は薄いので「もっと厚い本がいい」と文句を言ってしまったが、読んでみたら、つかまってしまった鳩が最後は自由になるインドの昔話で、とても面白くて何度も読み返してしまった。ところが、本おじさんは、無断で営業しているというので、突然店の撤去を命じられる。でも、おじさんは無料で貸しているから営業なんかじゃない! なんとかおじさんを助けたい。おじさんに会いに行く中で、おじさんは元は学校の先生で、字が読めない人に文字を教えたり、住所がないホームレスの人にだって本を貸してあげていたことがわかる。みんなおじさんが大好きで、なんとかしたいと思っている。おりしも町は選挙戦の真っ最中。あの昔話のハトは、たくさんのハトが集まることで、網を持ち上げて自由になった。私たちも力を合わせればいい。自分が投票したい候補者に、おじさんのことを訴える葉書を出そうとヤズミンは思いつく。おじさんの問題を「選挙のなかみ」にするのだ。親友リーニとの小さなけんか、いじわるな叔父の訪問、街の中のひとたちとの交流。現市長の不正疑惑、さまざまな問題が無理なく融合して活気にあふれるインドの街と、そこで暮らすがんばりやのヤズミンの暮らしが浮かび上がってくるようでとても魅力的。インドを身近に感じられる物語だと思う。

わたしのアメリカンドリーム

 

ミアの家族はアメリカに来て2年。でもパパもママも懸命に働いているのに、ちゃんと暮らしていくのが難しい。レストランを首になった両親は住み込みのモーテルの仕事にとびついたが、家賃は無料だけど、両親が必死に働いてもなかなか仕事はまわらないし、給料は最低。両親を助けようとミアは、はりきってフロントを受け持ち、懸命に仕事をする。でもオーナーのヤンさんは、何かというと給料から経費をひくし、息子のジェイソンも意地悪。学校ではルーベという友だちができたけど、見栄を張って飼ってもいない犬がいるとか嘘をついてしまう。しだいにわかってくる中国人ジェイソンや黒人への差別、仕事でほめらる誇らしさ。だけどジーンズさえ買えないくやしさ。何とかしてまともな暮らしに這い上がりたいと、モーテルを懸賞とした参加費300ドルのコンテストに応募してみるが、夢はかなわずコンテストそのものに詐欺疑惑! ヤンさんがモーテルを売却する必要が生じたときに、みんなでお金を出し合って買い取るラストは、感動的だけど、この後大丈夫かしら? ものすごく多くの人に配当金を分配するわけだけど、人によっては不満もでるだろうし、会計報告もきちんと作らなければいけない。私だったら、続編を書くな。まず、少額の出資者分は利子をつけて持分を買い取って、ある程度人数を減らす(そうしないと現実的に業務が大変過ぎるのでは?)。でも、メンテナンスや固定資産税、修理積立と会計・事務管理費を支払ったら、そんなに贅沢な暮らしとは言えないかも。その中で共同で運営をうまく軌道に乗せるというのは、なかなかスリルとサスペンスな物語になりそう。

妖怪がやってくる

 

妖怪はどこからやってくる? と問われ、妖怪にはちゃんと(?)出現ポイントがあることが示される。当時の記録の資料を使って論証、そしてそれが宮中に向う”道”の入口に当たる場所であるという導入で、わくわくしてくる。妖怪への対処法や、妖怪が徐々に距離を詰めて近づく感じ、人生の区切りや空間の区切りの境い目に現れるようすなどとても面白い。子どもたちが興味を持ちそうな妖怪ウォッチ鬼滅の刃も例にあげてあって、興味をひきそう。ただ、用語はわりと無造作に漢字の熟語を使っている(例:侵入経路、記録を分析、対処した等)。妖怪とあって手を伸ばした、読書経験の少ない子のためには、こうした用語を言い換えても良いかも(どこから入ってきたのか、書かれているものを調べてみると、どうすればいいかという方法がわかっていた等)。まぁ、わからなくてなんとなく読み飛ばしてもよいのですが・・・

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2

 

息子も中学2年。庭に置いた廃棄予定の品をルーマニア家族に譲ったことをきっかけに、不要な物のリサイクルと、隣人と分かち合うことの違いを考え込んだり、仲が良かったティムとは、彼の過酷な家庭環境のせいで徐々に溝が生まれてきたり、心は揺れている。進学に有利なカトリック校に進まなかったことの是非だって迷いを感じることもある。常に変化しながら成長する彼を前にして、みかこさんも、その夫も自分の考えをきちんと話して向かい合う。緊縮財政で閉館した図書館が、ホームレスシェルターになることで地価が下がると反対する大人たちのまさかの行動。社会はどうすれば変われるのか? 私たちもまた考えることを迫られるような本。

おとなってこまっちゃう

 

メキシコの作家による児童文学だが、国籍を強く感じることはなかった。

サラは9歳の女の子。両親は離婚して、今は人権派弁護士のママと暮らしている。ママは貧乏な人からお金を取らないから家計はキューキュー。家のことは住み込みのデルフィーナがしてくれている。消防士で元気いっぱいのパパのことも大好きだ。ところがおじいちゃんが再婚するといいだして、しかもそればママと同じくらいの女性だとわかってから、ママは怒りまくっている。恥ずかしいから絶対に結婚式に行かないというのだ。サラはワクワクしているのに。おじさんのサルはゲイでガブリエルというパートナーと暮らしているけど、おじいちゃんにはまだそのことが言えない。サルおじさんは、この機会におじいちゃんに、ちゃんと話そうと思っている。サラとパパ、サルおじさんは、なんとかママを説得しようと作戦をたて、再婚相手のアマリアをとりあえず合わせようと、正体を明かさずに家につれてくると、なんとママの昔の親友だった! だが、アマリアは、それでますます本当のことをいえなくなる。こんがらがった、再婚騒動のドタバタを明るく描き、みんなが自分らしく幸せになる感じがとてもいい。

トラからぬすんだ物語

 

突然ハルモニ(おばあちゃん)の家に引っ越すと言い出したママ。姉さんのサムは怒り狂っているけど、私リリーは何も言えない。いつでもおとなしいママのいい子だから。だけどハルモニの家のすぐ前で、トラを見た。すごく大きくて私にしか見えないトラ。ハルモニはいつでもトラが出てくる昔話をしてくれた。トラに追われても、姉さんと妹はいつだって無事に逃げられて幸せになるおはなし。家に着いたら、ハルモニはどこか変だった。元気そうにふるまっているのに、突然吐いてしまった。病気を起こす悪霊のせいだ。トラをつかまえればハルモニはきっと元気になる! 隣にある、小さな図書館にトラのことを調べに行って元気な男の子リッキーや図書館の人たちと出会う。どんどん具合が悪くなるハルモニ。そしてトラはおばあちゃんが昔盗んだおはなしを返せば、おばあちゃんを助けるといってくれた。それは、人間でありトラでもある娘の物語。人間の世界でも、トラの世界でも生きられなくて旅立った女の子の物語。おとなしくていい子のはずだったリリーが、自分もトラであったことに気づき、爆発してしまうところが何とも魅力。リアルであり、ファンタジーでもある魅力的な物語。