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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

名もなき花たちと 戦争孤児の家「エリザベス・サンダース・ホーム」

 

戦後、混血の孤児たちを救った澤田美喜の実話を描いた作品だが、これを読むと、日本人がどんなに根強い差別感を持ち続けたかがよくわかる。戦後の貧しさはもちろん子どもを手放す要因になったろうが、とりわけ混血、特に黒人との混血への激しい差別。そのために小学校や中学校さえも自前で作らなければならず、成長した後も日本で居場所が見つからずブラジルに送り出している。島国ゆえの視野の狭さかもしれないが、今もこの現状はまだまだ続いている。当時の限界の中で、澤田美喜が死力をつくしたことは間違いないのだろうが、差別がない世を作ることはできず、かばうためには社会から隔離するしかなかったというのはなんということだろう。作品は、澤田美喜を評価する視点で業績を語っているが、混血の子どもたちを日本から追いやるほどに差別しぬいた日本の社会の物語と、私は読んだ。
余談だが、私にはやはり進駐軍とのハーフのいとこがいる。片親で混血だというので、やはり差別を受けたのではと思うのだが、父の姉であるいとこの母親は、彼女を大切に育て、おっとりした性格のすてきなお嬢さんに成長した。彼女は幸せな結婚をして孫もいる。彼女を私の結婚式に招待したとき、他のいとこの結婚式に招待された時、本名のダアリンではなく花子という日本名で座席表に名前を書かれてとても嫌だったので、そういうことだけはしないでくれと頼まれた。穏やかに成長したように見える彼女も、そうとうの嫌がらせを耐え抜いたのだと思わされた瞬間だった。差別がない世の中に自分ができることを考えたい。