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あの夏のソウル

 

あの夏のソウル (YA! STAND UP)

あの夏のソウル (YA! STAND UP)

 

「1945,鉄原(チョロン)」の続編。舞台は1950年のソウル、南北動乱に移る。前作で小作の孤児の身から書店員になれた敬愛(キョンエ)は高鳳児(コポンア)という14歳の孤児のめんどうをみていた。鳳児は日本軍と戦って戦死した父と、南朝鮮労働党の党員として逮捕された母がいた。南でものごい同然で暮らしていた鳳児を、母は同志に託して北に送り、万景台(マンギョンデ)革命学院で受入れられていたのだが、母親が南で転向して出獄、その後死んだという情報で大きなショックを受ける。反革命の母の子となったショックで学校に居場所を失った鳳児は北の南進にまぎれてソウルにつく。叔父の梁真石(ヤンジンソク)と出会い、北に占拠されたソウルで暮らし始め、学校のアジテーターとして注目を集めて誇り取り戻す。梁は学校の補助教師として学団を指導している。前作で良家の息子として生まれながら、貧しい人に寄り添いたいという良心を持って行動したが殺された黄基秀(ファンキス)の甥、黄殷国(ファンウングク)17歳が同じく良心的な少年として現れる。その友人は貧しい小作農の息子だが、最優秀で奨学金を得て入学した呉吉在(オキルチェ)。豪快だが、やはり家計が苦しい家出身で右翼化していく具相満(クサンマン)。共産主義者の崔学成(チェハクソン)。梁の学団でとりわけ仲が良かったこの4人の生徒は、その前から運命が分かれ始めていたが、この内戦で決定的になる。だが、思想を越えて、相満をかくまうが発覚。そのあおりで梁と崔は北の志願兵の道を選ばざるをえなくなる。殷国の父親はその前からのやり手判事で偏狭な右翼。北制圧下のソウルで潜伏し、友人を気遣う息子を無理やり取り戻す。ソウルは空爆され、鳳児は新たな友人となった貞淑(チョンスク)の死に、初めて戦争のむごさを理解し、自分が鼓舞して戦場に向かわせた人間への責任に恐怖を感じる。アメリカのてこ入れによって取り戻されたソウルで、強制的に北に従っていた人たちさえ処刑される自体がおとずれる。呉の家族は、村一番貧しかったために北の解放時に農地委員長にされ、南が再占領した時に反逆者として処刑され、彼も拷問の末に南軍の最前線に送られる運命に見舞われる。巧みに特権を享受した世渡りをする父の前で、殷国は何ができるかわからないながら、それ以上このままの暮らしは続けられないと最後に逃げ出す。自分のせいではない運命の嵐の中で、翻弄される姿が痛切。それにしても南北動乱について無知だったことが、読んでいて本当恥ずかしくなりました。