4代にわたる一族の短編連作。1935年不況の真っただ中に父親を亡くし、ケニーは学校を辞めて仕事を探さなければならなくなる。仕事が見つからなけば家族は離散の道をたどるという恐怖に直面する『オオカミが来た朝』。1957年ケニーの娘クライティとフランシスは認知症が始まった叔母さんを家に迎えることで、互いの存在を認め合う『メイおばさん』。1954-1959年フランシスが貧しくて攻撃的な少女ボニーと出会う『字の読めない少女』。1975年は一家の近所に越して来た難民のインド人兄弟の物語。医師の父と3か国語を話せる母、裕福で教養ある暮らしは消え、逃げる途中で幼い妹は殺されてしまっった過酷な経験『思い出のディルクシャ』。1991年なんとイスラエルで結婚して息子ガブリエルを生んだフランシスは、イラクのクゥエート侵攻の中、戦争の予感におびえるが、幼い息子には理解できない。アラブ人の市場へ買い物に行きたがり、聞きかじった「サダム・フセインは大まぬけ」という言葉を平気で口にする『冬のイチジク』。2002年クライティの孫ジェイムズは両親の喧嘩におびえ、なんとか弟のデイビッドにだけは恐ろしいことが起こっているのを隠そうとする『チョコレート・アイシング』。いずれも冷酷な現実と向かい合いながら、現実に向かい逃げない子どもたちの姿をしっかり描いていて何とも魅力的。短篇なのに、長編を読んだような深い余韻が残る。