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月の光を飲んだ少女

 

月の光を飲んだ少女

月の光を飲んだ少女

 

2017年ニューベリー賞受賞作。火山の近くにある森に囲まれた村では、毎年赤ん坊を一人魔女に捧げなくてはならなかった。もし捧げなければ、魔女は町を滅ぼしてしまう。だが、その年、赤ん坊の母親はこれまでになく激しく抵抗した。そのありさまを目にしていた長老見習いアンテインは、耐えられない思いだった。実際、森には魔女がいた。だが、魔女ザンは町の人が置いていった赤ん坊を大切に保護し、森の向こうの自由な市に連れていって、その子が幸せになれるような両親を見つけてあげるのが常だった。ザンは竜の子フィリアンと沼坊主グラークと共に暮らしていた。鳥のように小さいのに偉大な竜としての誇りではち切れそうなフィリアンはいつも元気いっぱい。そして太古の昔からいるグラークは、いつもザンを助けてくれた。激しい抵抗のあげく星の修道会の塔に閉じ込められた母親の赤ん坊を、ザンはなぜか手放せなくなってしまう。そして赤ん坊にいつも与えている星の光と間違えて、月の光を飲ませてしまった。月の光には魔力が宿る。もう他の人には任せられないルナと名付けて育て始める。だが、5歳になったルナは分別がつかないまま魔法をあたりに振りまき始める。ザンはやもなくルナの魔法が13歳になるまで封じ込めた。町を牛耳り権力を振り回す長老会と星の女子修道会の修道長イグナチア。アンテインは赤ん坊を犠牲にする長老会に耐えられなくなって飛び出し、同じく星の女子修道会を抜けたエサインと結ばれる。ルナの母は、塔の中で折り紙の鳥を折り続ける。そしてアンテインとエサインの間に赤ん坊が生まれた時、彼は魔女を滅ぼす決心をして森に向かう。もつれた運命と誤解の中で、魔女ザン、人間の悲哀を糧に生きるイグナチア、ついに魔法が発動するルナ、アンテイン、ルナの母たちが森で対決するクライマックスまで盛り上げ、イグナチアをただの悪人ではなく、深く傷ついたゆえにゆがんだとするなどよく考えられている。だが、それだけによく工夫された作品だが、ずっと残るようなパワーには欠ける作品かも。良質なエンターテイメントです。