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砂糖の世界史 岩波ジュニア新書

 コロナウィルスでまさかの全国休校(一部なんとか開校)の日本。でも、この機会に自分で学んでみたい子もいるかも。今月は、中高生にいろいろな世界を拓いてくれた岩波のジュニア新書を読んでみようと思っています。でも、実際読み始めてみると、読みやすい物、読みにくい物!? いろいろですね。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

  • 作者:川北 稔
  • 発売日: 1996/07/22
  • メディア: 新書
 

 ジュニア新書のロングセラー。砂糖は、世界中で使われる「世界商品」であり、その歴史を追うことで「世界システム」論と言われる歴史の見方を学べるという視点はとてもおもしろかった。当初希少で薬扱いであった砂糖が、プランテーションによって増産され、新大陸からヨーロッパへ「砂糖・タバコ・綿花」、ヨーロッパからアフリカへ「綿布・鉄砲・ビーズなど」、アフリカから新大陸へ「黒人奴隷」という三角貿易の構図ができて、今に至る問題として後を引いているという構図。かつ砂糖の産地が砂糖に偏った産業のみを奴隷に担わせたために健全な地域の発展ができず現在まで貧困問題が続いているというのは悲劇だ。「砂糖」と「お茶」が高額であることからステイタスシンボルとなり、そのために紅茶に砂糖を入れる習慣が生まれたというのはびっくりだが、さらにそこから「コーヒー・ハウス」が生まれ、ここの情報交換から王立科学協会や保険会社、政党などが生まれたという経緯からすれば、さらに驚く。砂糖栽培に適した植民地を持てなかったプロイセンのビート(砂糖大根)栽培の強化や、砂糖植民地の特権廃止攻勢のためにそれを支えた奴隷廃止に動いた政治の動きなど、さまざまな利害関係が、歴史を動かしていく(その背景に朝ごはんに安価な砂糖入りの紅茶を求めた庶民の願望も!)があるようすが面白かった。年表の暗記ではない世界史の楽しさを、中学生から大人まで知ることができる本。