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十歳、ぼくは突然「敵」とよばれた~日系アメリカ人の政治家ノーマン・ミネタ~

 

 1941年真珠湾攻撃を受けたアメリカは日本軍の侵略を恐れ、西海岸の日系人を強制収容した。当時10歳で収容所生活を送り、戦後国会議員となって強制収容に対する謝罪と補償を勝ち取り、その他の人種差別をなくすことに尽くした日系2世ノーマン・ミネタの半生を聞き書きでつづる。日系人強制収容の事実と、その前後の日系人の扱いや生活を知り、移民の国アメリカの複雑さを改めて感じる内容。
外国人登録法や白人優先の日常生活でそもそも差別を受けていたのに、アメリカへの忠誠心から命令どおりに収容に応じ、アメリカの勝利を望んでいた日系人たち。収容の際に家や財産、職を奪われた。収容所内では1家族1部屋、黒いタール紙張りのバラックに押しこめられ、銃を持った兵士に24時間監視塔から見張られる。一方、畑や庭をつくったり、カタログからほしい物を購入できたり、野球やダンス、盆踊りを楽しんだりもできた。資料写真に見える、移送列車や収容所内の食堂に並ばされる姿と、笑顔で踊る姿は、同じ収容所の暮らしとは思えないくらいだ。さらに、ノーマンの家庭は裕福で、教会に預けていた財産は解放後すべて戻ってきたことも恵まれている。その自分の立場や経験を生かし、日系人に行われたことは「日系人だけの問題ではなく、すべてのアメリカ人に関わること」と述べ、2001年9月11日同時多発テロの際もいち早く航空会社に対して乗客の差別を行わないよう働きかけた。「政府が正しいことをするという保証は何もない」という言葉を私たちもかみしめたい。自分の頭で考え行動することを。 (P)