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父さんの手紙はぜんぶおぼえた

 

 オランダで幸せに暮らしていたユダヤ人一家の末っ子ジャクリーンは、迫るナチの手を逃れリーネケと名前を変えて住まいを転々とすることとなった。大学で教えていた父が職を追われ、徐々に生活が制限され、ついに家を出るまでの緊張感。姉と共にあずけられた家に危険が迫り、田舎の医者の家族の家に「姪」としてあずけられる。リーネケの心の支えは父から来る絵入りの楽しい手紙だった。戦争の嵐の中で、ユーモラスでカラフルな手紙を送り続けた父親の愛情が伝わってくる。村にまでやってきたドイツ軍。リーネケがあずけられた医師の家には、さらにユダヤ人のカップルがかくまわれるが、ユダヤ人を匿っていたのがバレて、ドイツ兵に射殺された村人もでた。優しく繊細な心を持ったリーネケの緊張感が胸に迫ってきて苦しくなる。この先何があるのか? 一家は助かるのか? とページをめくった。ユダヤ人というだけで受ける差別、こうした問題が今でもなくなったとはいえないのではないかと思わされるのがつらいが、どうしたらそうした社会の中で、少しでもリーネケを助けた人々に近い行動がとれるのか考えたい。