時はいにしえの都の春。大納言の姫君は、虫を愛でる変わり者。毛虫を手にのせて見とれるうち、うとうと眠ってしまった姫君の夢に、次々とユニークな登場人物が現れ、1つの細胞から始まった38億年のいのちの歴史を教えていく。夢から覚めた姫君は、虫愛づる姫から「生命(いのち)愛づる姫」に成長されたのでした。
生命誌を唱える科学者の中村桂子さんと童話作家が組んでつくった朗読ミュージカルに、自然の宇宙を描き出す絵画。バクテリアは威勢のいい飛脚、年じゅう集っているカイメンは町娘、タイは赤ら顔の裕福な男など、特徴をとらえた擬人化がおもしろい。
カイメンの細胞の遺伝子に、人間の脳ではたらくのと同じものがあったり、シダにも花をつくる遺伝子があったりして、「ヒト」や「花」の遺伝子が新しいのではなく、「すでに存在するもの」や「変化したもの」の組み合わせが生物の多様性を生んだこと。シダは「牡丹、シャクヤク、ユリの花、なにさでもなれる可能性を秘めているのでがんす」と言い、ミドリムシが「人間みたいに戦で仲間をほろぼす生き物は、おらへん」と言う。すべてのいのちを全体として1つのつながりで捉える、生命誌の考え方がよく理解できます。巻末に、顕微鏡写真と詳しい解説。 (は)