児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

タマゾン川

 

タマゾン川   多摩川でいのちを考える

タマゾン川 多摩川でいのちを考える

 

子どものこら多摩川で遊び、生き物が大好きで大学でも釣りに夢中になり、釣りの会社に入社するも、釣りをする暇もない忙しさに、1年で辞めて生物の環境調査の仕事を手探りで始めた著者。美しかった多摩川が高度成長期に汚水の流れる川に変わり、その後下水処理場の建設でやっときれいな川になるが、こんでゃ外来魚が急増する。飼いきれなくなったペットを捨てる人が多く、東南アジアやアマゾンの魚までうようよあふれる。「これではタマゾン川だ」とふと発言したことが広まり注目を集めるようになる。だが、著者は外来魚を駆除するのではなく、なんとか活かそうとする「おさかなポスト」の活動を始める。里親をさがすが転売されたり、駆除でないため補助金が下りなかったり、試行錯誤をしながら進めるようすはとても興味深い。そして3.11。ここで、停電により下水処理場が止まり、そのままの排水が流れたら一挙に汚染水で魚が大量死するという危険があることが語られる。こうした想像もしていないことを知ることができ、そのために私たちが節電や節水で貢献できるこいう建設的な提案がなされる。多摩川の複雑な問題を誠実に解き明かしてくれている本。 

かせ

 

かぜ

かぜ

 

 マチルデとマーチンの姉弟が、風がどこから吹いてくるかを探しにいこうとする物語。風を喜ぶ人(洗濯物が乾く、早く進める)、嫌がる人(木が折れてしまった、じゅうたんが飛ばされる)など、いろいろな風と人とのかかわりや、風が誕生するところを想像するファンタジー的な要素が入り楽しい。激しい風にあおられている人々の姿を描くオルセンの絵も魅力。

あめ

 

あめ

あめ

 

 「しずくのぼうけん」に似た雰囲気。しずくがシャロッテに自分たちの暮らしを語る構成。「かぜ」に比べるとちょっと説明的だが、雨のしずくが鼻の先に当たるのは、雨のあいさつ、というところなどは楽しい。

空からのぞいた桃太郎

 

空からのぞいた桃太郎

空からのぞいた桃太郎

 

 空から俯瞰した構図でいわゆる桃太郎の昔話を描くが、帯に「鬼だから殺してもいい?」と書いてあるのが、この絵本の意図なのがバレバレ。昔話が持っているシンボリックな部分(自分の中の悪い部分を滅ぼし、新たな力を得る)を卑俗な感じにしたともいえる。桃太郎の物語が、戦前に大陸侵略の正当化に使われた歴史があるのを注意しなければならないことは事実だが、こうした表現にすることもまた一種のプロパガンダでは? 桃太郎の物語自体に、いろいろ利用されたりしながらもそれを超えた根本的で真っ直ぐな力があるので、使われるんでしょうね。

炎に恋した少女

 

炎に恋した少女 (SUPER!YA)

炎に恋した少女 (SUPER!YA)

 

 『ヴァイオレットがぼくにのこしてくれたもの』の作者だが、前作同様、勢いはあるけど微妙な欲求不満を感じた。

アイリスはニューヨークに住む16歳の女の子。母親のハナも義父のローウェルも見かけだけを飾り、お金が大好きな人種だ。アイリスの救いは火をつけることだけ。偶然出会った路上アーティストの19歳のサーストンとの交流だけが心の救いだ。だが、サーストンとちょっとしたケンカをしたのち、急に一家はイギリスに行くことになる。幼児のころ別れて記憶のない父アーネストに会うために。彼は死の直前で、ハナは彼の財産が欲しかったのだ。反感を感じていたアイリスだが、アーネストは弱さはあるが魅力的で優しい父であることに気付く。二人は心を通わせるが、最後の日は近づいていた。アイリスとサーストンの友情、アーネストの過去が語られ、最後にアーネストは息を引き取る。そして全財産を手にするつもりでワクワクするハナに強烈なしっぺ返しが待っている。これって、映画の原作にするといいんじゃないか? サーストンのパフォーマンスとか、燃え上がる炎とか、アーネストの子ども時代の姉マーゴットとの回想シーンとか・・・。だが、残念ながら読みものとしては粗がめだつ。子育てに興味ないハナが、なんでアイリス連れて出たの? 養育費も出させずに??? 金の亡者なら絶対養育費めあて設定にするな、私なら。アーネストも贋作で儲けてて平然としてていいつもり? なんだかポップだけど詰めが甘い感じは『ヴァイオレット・・・』と共通したものを感じる。最後まで気をそそるけど、やったね! とラストで喜べないのは私が年老いたせいなんだろうか?

トレマリスの歌術師 

 

トレマリスの歌術師〈1〉万歌の歌い手

トレマリスの歌術師〈1〉万歌の歌い手

 

 装丁がそそる感じだったので手に取ったが、あまりにも「あるある」ファンタジーだったので、途中でやめてしまった。隔離された場所に住む巫女たち、歌の魔術、巫女のリーダーはやさしく副リーダーは厳しい。主人公は、奔放で叱られていてよそ者を助ける。助けたよそ者は、謎の人物だが、能力が高くイケ面。だがストイック。そして、いろいろあって彼と共に外の世界へ~です。なぜ早々に読む気が失せたのかを振り返ると、リアリティのなさ。歌で魔法が働くシステムは、どこから力を得ているのだろう? 旅の大変さは、どう大変なんだろう? この作者は、絶対に野宿とか経験なさそう・・・と感じてしまいました。そういうものを求めなければたのしめるのかも・・・

 

帰ってきたキャリー

 

帰ってきたキャリー (1977年) (児童図書館・文学の部屋)

帰ってきたキャリー (1977年) (児童図書館・文学の部屋)

 

 第二次世界大戦時イギリスの疎開の物語。強欲で威張り屋のホストである主を、最初は恐れ、次第に理解し、ついには同情していくキャリー。行動派のキャリーと対照的で思索派のアルバートと、彼の引き取り手であり、魔女と呼ばれるペプジーバー。それぞれの人物が良く描かれ、ミステリアスな雰囲気もあり楽しく読める。