児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

はずかしがりやのおつきさん

 

 まんまるお月さんが光をそそぐ野原に、馬車が1台止まっている。中にはギュリーちゃんといぬとねこが眠っており、外で馬のロシナンテが月明かりをたよりにおばあさんに手紙を書いていた。明るいので目を覚ましたギュリーちゃんといぬとねこが月をじっと見つめると、月は雲のかげにかくれてしまう。出てきてくれとロシナンテが呼びかけるが、月は恥ずかしがったまま。ロシナンテはギュリーちゃんたちをしかり、ギターを手にとり歌い始める。そのうちギュリーちゃんたちは心地よく眠ってしまい、月はまた輝き始める。手紙を書き終え眠りについたロシナンテの上で、月は一人おどり続けた。
独特な「青」の世界が強烈な印象を残す。子どもの頃は、馬のロシナンテがどなった時のギュリーちゃんのびっくり顔をこわく思いつつ、妙に好きだった1冊。小屋の窓からのぞいているギュリーちゃんたちが紙人形のように平板で、これは本当の話じゃないということか、夢の中だからなのかと、子どもながらに感じていたことを思い出す。

月からきたトウヤーヤ

 

月からきたトウヤーヤ (岩波少年文庫)

月からきたトウヤーヤ (岩波少年文庫)

 

 中国チワン族に伝わる民話をもとに創作された話。
ある山里に一人で暮らすおばあさん。十五夜の晩、2羽のうさぎにのって現れた白ひげ老人にわらじを作ってやると、お礼にトウモロコシの種をもらう。まいて育てると、トウモロコシの実は人間の男の子になった。トウヤーヤと名づけて育てるが、働きづめのおばあさんは目が見えなくなってしまう。病気を治すという金の鳥を探すため、トウヤーヤは旅に出る。トラ、竜、シシを次々に倒し、なぞなぞをといて難関も突破し、わたひめが守る金の鳥を手に入れ無事に帰るも、金の鳥のうわさを聞いた王様にとらわれ、木の下に埋められてしまう。戻らないトウヤーヤを探しに、今度はおばあさんとわたひめがお城に向かうが・・・。
冒険につぐ冒険にぐいぐい引きこまれるので、読み慣れない子にもすすめられる。

月へ行きたい

 

月へ行きたい (たくさんのふしぎ傑作集)

月へ行きたい (たくさんのふしぎ傑作集)

 

 月へはどうしたら行けるかな?雲を乗りつぐ?風船で飛ぶ?飛行機なら空を飛べるし速いけど、実際は地球の周りをぐるぐる回って離れられない・・・そこで造られたのが月ロケットだ。ということで、ロケットの燃料や構造、第1、第2、第3段と切り離しながらスピードを上げて宇宙へ飛びだしていく仕組みが解説される。重さ約2900トン、高さ110.6メートル、直径10.1メートルという巨大な乗り物のなのに、月に降り立つ部分はごくごく一部、乗るのはたった3人だけ。月へ行くための条件は、重力を振り切って地球から飛び出すスピードや力、宇宙の環境から身を守ること、宇宙で進む力。これら3条件をクリアするのは大変なことなのだ。でも、ロケット以外にこの条件を満たす方法の研究が続けられている。太陽帆船や宇宙エレベーター、真空チューブなど。きみならどんな方法を考える?と最後によびかける。
空想のような方法でもいつか実現できるかもしれない、たくさん想像をふくらませてほしい、という思いが伝わる。折りたたまれたページを開いてロケットを縦に見るページでは、説明文も同じ縦向きで読めるとよかった。

ドリトル先生と月からの使い

 

 

ドリトル先生と月からの使い (ドリトル先生物語全集 (7))

ドリトル先生と月からの使い (ドリトル先生物語全集 (7))

 

 虫語の研究に夢中過ぎて、しばらく旅行に出ようともしないドリトル先生に、動物たちは不満たらたら。ようやく応じたドリトル先生は、「運任せの旅行」をすることに。それは、目を閉じて地図帳のページを開き鉛筆で突いた先へ必ず行くというもの。鉛筆の先が突いたのは、なんと月だった。月へ行くなんて無理だと一同がっかりしたそのとき、窓をたたく物音が。月明かりの庭を見ると、家ほどもある巨大なガがいた。ドリトル先生は、そのガを調べ会話を試みるうち、月から何らかの使命をおびて来たのではないかと確信するようになる。月へ向かわねばと、ドリトル先生は密かに準備を始める・・・。
ドリトル先生は、この巻でなんと虫語を習得する。子どもの頃、シリーズの中でこの巻が1番好きだった。ガや虫が好きなわけでもなかったのになぜ?と考えると、まさにこの人間と虫がしゃべるということが現実に想像もできなかったからではないか。そしてなんと言っても、月への未知なる旅という期待感。地図帳を突いた瞬間真っ暗になりすぐには場所がわからないこと、その晩現れた巨大ガ、月から上がる煙の合図、こっそり出発しようとするドリトル先生、うわさを聞きつけた住民の騒ぎ、トミーの密航・・・と、たたみかけるような仕掛けが本当におもしろい。
ちなみに第1部の犬の自伝物語は、月からの使いとは関係ないようでいて、生き物として同等の犬の尊厳が伝わってこちらも印象深い。

 

セロひきのゴーシュ

 

セロひきのゴーシュ (福音館創作童話シリーズ)

セロひきのゴーシュ (福音館創作童話シリーズ)

 

 ゴーシュは、町の楽団でセロ(チェロ)を担当していますが、下手なので楽長に叱られてばかりいます。夜、家で練習しているとねこ、かっこう、たぬきの子、野ねずみが順に一晩ごと訪ねてきて、ゴーシュにあれこれ注文をつけたり指南を請うたりしていきます。ゴーシュは、「生意気だ」と腹を立てたり「これはおもしろいぞ」と思ったりしながら動物につき合って練習を重ねるうち、自分では知らぬまに腕をあげ、演奏会のアンコールに一人で出て演奏を成功させるまでになるのです。
瀬田貞二さんのあとがきには、宮沢賢治作品の中では最もわかりやすく「かなり小さな子にまで楽しまれ」とありますが、私自身の経験や周囲からは、子どもの頃は「こわい話だと思った」「よくわからなかった」という感想を聞きます。おはなしを語るようになって気づきましたが、この作品は声に出すとわかりやすさも面白さもぐんと増します。子どもには、ぜひ読んであげてください。

しでんとたまご

 

しでんとたまご (特製版)

しでんとたまご (特製版)

 

 じろうが朝早く野原を散歩していると、森から1台の市電がやってきた。「のるかい?」とじろうを誘い走り出す市電。月の光をエネルギーにして走ってゆく。日がのぼり始め、じろうが降りようとしたとき、座席に1つのたまごを見つける。巣に戻してやろうと森じゅうの鳥の巣を探すが、同じたまごは見つからない。日が暮れかけてしまい帰ろうとすると、突然の稲光とともに雷の音がひびく。ほら穴にかくれたじろうは、いつのまにか眠ってしまい夢を見る。市電が虹をのぼって星空へ消えていくのだ。目を覚ましたじろうが森を出ると、野原に焼けこげた市電が。雷に打たれてしまったらしい。悲しむじろうのポケットで何かが動いた。たまごから出てきたのは、ワニの赤ちゃんだった。
木目を生かした挿絵は、元大工の版画家によるもの。宮沢賢治の童話絵本も手がけており、どこか賢治ワールドを感じる。

キロコちゃんとみどりのくつ

 

キロコちゃんとみどりのくつ (おはなしフェスタ)

キロコちゃんとみどりのくつ (おはなしフェスタ)

 

 バレエの発表会用にキロコちゃんが手に入れた緑色の靴は、なんと自分勝手に好きなことを始めてしまうわがままな靴でした! ミドリン、ミドロンと名前をつけて、なんとか靴たちとうまくやろうと頑張るキロコちゃんの楽しい成長物語。