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レギュラーになれないきみへ 岩波ジュニア新書

 

レギュラーになれないきみへ (岩波ジュニア新書)
 

 野球部の強い学校ほど部員は多く、したがって補欠も多い。3年間一度も試合に出してもらえない選手だっている。そんな彼らの部活動はどんな意味を持っていたのか? 有名選手の本はあるが、そんな無名のレギュラーになれなかった部員等に焦点を合わせた本。著者も元学生野球の経験者で、「補欠の力」など他にも同じテーマを追求した本がある。高校時代にうまくいかなかったがプロのチャンスをつかんだ松原聖弥。期待されてプロに入りながら低迷しクリケットに転向した山本武白志。レギュラーになれなかった球児に試合チャンスを与えるプロジェクトを企画し、それによって野球部全体の活性化を成功させた塩見直樹。試合に出場しないキャプテン岩本淳太、補欠から抜け出せなかった経験を活かして社会に出て26歳でIT社長の座をつかんだ須田瞬海。自分の経験を活かしたマンガで成功する”なきぼくろ”。東京六大学初女性主務として部員を見守る小林由佳など多彩な内容。印象的だったのは最後の「奇跡のバックホーム」を生んだ矢の勝嗣の事例。彼を起用した監督は「あいつなら失敗しても、それまでの練習に取り組む姿勢を見ていたので「あいつがやったんなら仕方がない」と納得できる。」として彼を機よ王したとのこと。結果は大切だけど、失敗した時にみんなが納得させられる力はさらにすごいかもしれない(ちなみにこの時は成功)。全体に、勝つことや自分がレギュラーになることは大切だけれど、それ以上自分が不遇であっても周りをうらんだり、他人を引きずり落とすことを考えるのではなく、野球を楽しむことを忘れずにさいごまでやりきった人間が舞台を変えて花開くチャンスを手に入れていく姿が気持ちよかった。レギュラーにはなれなくても部活が大好きな子にとって励まされる作品。