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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

見えない雲

 

14歳の少女ヤンナ-ベルタの町シュリッツに、ある日突然サイレンが鳴り響いた。90kmほど南東の原子力発電所で事故が起きたのだ。すぐ近くの町には両親と2歳の弟が出かけている。ヤンナ-ベルタは小学2年の弟ウリを連れて、自転車で北へ向かった。

1人の少女が背負うにはあまりにすさまじい体験。狂気と混乱の車の列。目の前で車にはねられる弟。雷雨を浴びた少女は村の学校に急きょ設けられた病院へ運ばれる。次々に死んでゆく子どもたち。知らされる両親と幼い弟の死。父方の伯母に引きとられての抑圧的な生活。”ヒバクシャ”として避けられ好奇の目を向けられても帽子をかぶらないヤンナ-ベルタ。再会した地元の級友の自死。ヤンナ-ベルタは1人で母方の叔母の元へヒッチハイク。ようやく心安らぐ暮らし。悪夢にうなされることもなくなった。笑い合い、家族のためにはたらけるようにもなった。15歳の誕生日。ヤンナ-ベルタの頭にうぶ毛が生えてきた! 少女は再び1人で、ふるさとの我が家へと向かった。
チェルノブイリ原発事故(1986年4月)直後に書かれた作品。サブタイトルに「何も知らなかったとはもう言えない」とあるが、私たちはまた繰り返してしまった。でも、ヤンナ-ベルタは力強く言っている、「生きてるっていうことよ」。私たちは何度でもやり直さなければならない。 (は)