児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ねこと王さま(2020課題図書 小学校中学年の部)

 

ねこと王さま (児童書)

ねこと王さま (児童書)

 

 一番の友だちのねこと一緒にお城で楽しく暮らしていた王さまは、ドラゴンにお城を焼かれてしまったせいで、家をさがさなくてはいけなくなります。仕事をしてくれていた12人のめしつかいは他の仕事を探しに出ていってしまい、王さまはねことふたりきりになりました。おしろ横丁の家で暮らし始めた王さまは、お隣りの男の子と女の子がいる一家と仲良しになります。王さまは、今まで王さまの仕事しかしたことがありませんでしたが、少しづつ物を運んだり、狩りのかわりにスーパーで買い物をしたりという仕事をおぼえていきます。昔の暮らしを懐かしく思いつつも、ちゃんと新しい暮らしを学び楽しんでいく王さまと、それを助けてあげるしっかりもののねこの組み合わせがユーモラスで気持ちいい。それなりの長さはあるが、きちんと物語が描かれているので、読むのが苦手な子でも少しづつよんだり読んでもらったりしたら、十分に楽しめるであろう。

青いあいつがやってきた!? (2020課題図書 小学校中学年の部)

 

青いあいつがやってきた! ? (文研ブックランド)
 

 団地から、両親の夢だった庭付きのマイホームに引っ越して来たサトシ。でも、まさかのタイミングでお父さんは単身赴任となり、フルタイムで働き始めたお母さんは土曜日まで仕事がある。新しい学校で友だちを作れないまま2カ月が過ぎてしまったサトシはちょっと元気がない。窓から流れ星を見て、願いをかけたらかなうのだろうか? と思った。翌朝、お母さんがすでに出かけたテーブルに行くと、全身青くて、カッパとしか思えない変な生き物がいて、お前と一日過ごす! と宣言されてしまった。お母さんから夜に職場の歓迎会があるという電話をもらったサトシは、あんまりだと辛くなり、小さくなってポケットに入ったそいつと一緒に外に飛び出した。転校してから、自分の居場所がつかめずに、一人で本を読んだり静かにしていたサトシだが、カッパにけしかけられて、新しい食べ物にチャレンジしたり、お祭りではじけ、カッパは去っていった。家に帰ると、心配したお母さんが、歓迎会にサトシと一緒に行こうとしたのにと心配して待っていて、お父さんも慌てて帰ってきてくれた。そして、祭りの元気な様子をみた同級生たちに遊びに誘わてハッピーエンド。転校した心細さとか、自分の所にこういう謎のカッパが来たら、とか書いたらいかにも定番の感想文が書きやすそう。でも、お話の展開が想定の範囲内の感じで、しかも最後にカッパが自転車をおして空を飛ばせてくれるところはET!? と微妙に突っ込みたくもなった。本を読み慣れていない子が、無難に定番の感想文を書くには向きますが、読み継がれていく物語とは言えない気がしました。

ポリぶくろ、1まい、すてた(2020課題図書 小学校中学年の部)

 

ポリぶくろ、1まい、すてた

ポリぶくろ、1まい、すてた

 

 西アフリカのガンビア共和国の実話を元にした絵本形式の物語。アイサトは、子どものころ初めてポリ袋を見た。それが破けた時、それまでの植物を編んで作ったかごのように、その辺に捨てた。やがてアイサトは大人になった。ふと気づくと、村ではたいへんなことが起こっていた。ポリ袋はありふれたものになっていたが、捨てられた大量のゴミ袋を餌と一緒に飲み込んだヤギが死んでしまったのだ。アイサトは、ゴミの山からポリ袋を集めた。友だちと一緒に考えて、それを洗って細い紐にして編んでサイフを作った。市場でサイフを売って、ヤギを新しく買うお金を手に入れ、これからもポリ袋を捨てずに活用すればゴミはなくなると喜ぶ。あとがきを見ると、ポリ袋は、埋められるとそこに草が生えなくなったり、捨てられた場所に水が溜まって蚊の発生源にもなったという。実際のアイサトの活動のようすが見られるサイトも紹介されている。環境問題というテーマだが、何気なく捨てていたポリ袋がどんな問題を引き起こすのか、アイサト自身が自分で確認し、友だちと解決方法を考えていく過程が具体的に描かれているのでわかりやすい。自分で気付くこと、考えてみること、行動してみること、そんなヒントとしてこの本をやくだてることができるだろう。

山のちょうじょうの木のてっぺん(2020課題図書 小学校低学年の部)

 

山のちょうじょうの木のてっぺん

山のちょうじょうの木のてっぺん

  • 作者:最上 一平
  • 発売日: 2019/09/20
  • メディア: 単行本
 

 いがらしくんは、幼稚園の時に豆まきの豆を鼻の中に入れて取れなくなってしまうというような事件を起こした男の子、対してにしやんはおとなしくて人とろくに遊んだり話したりもできない男の子です。ある日、運動が苦手のにしやんが必死に走って家に帰るのでいがらしくんがついていくと、飼っている犬のごんすけが死にそうだとわかる。にしやんにとってごろすけははじめての友だちだったのだ。にしやんは、ごんすけは死んでも死なない気がするという。ごんすけは頑張ったのち、大風が吹いた日に風にのってでかけるように死んだ、というラスト。主人公二人が何歳かは書いてないが、たぶん1年か2年なのだろう。にしやん、ごんすけには思い入れがあるけど、いがらしくんとにしやんは友だちなのか? というような雰囲気。何となく物語世界がわからないし、子どもたちが読み継いでいく本とは思えない。ただ、犬が死んじゃうという話なので、ペットを飼っている子などは、それとからめれば感想文を書きやすいかもしれない。

おれ、よびだしになる(2020課題図書 小学校低学年の部)

 

おれ、よびだしになる

おれ、よびだしになる

 

 ちいさいころからすもうが好きだった「ぼく」は、すもうのよびだしさんが大好きだった。5歳の時、福岡の大相撲を見に連れていってもらった「ぼく」は、直によびだしさんと会い、親切に稽古場の見学に誘ってもらった。「ぼく」はよびだしになると決意し、中学を卒業するとすぐによびだしの修行を始めた。声を出す練習、太鼓の練習、土俵作りなどいろいろな仕事をおぼえ、やっと一人前の呼び出しとしての歩みだすという内容。正直「よびだし」の職業案内のようで、「ぼく」という男の子にリアルを感じない。中卒で、他の同級生とは違う道を選ぶのに迷いはなかったのか? 実際の修行では一番下っ端としての辛さだってあるだろうに、そうした描写はない。感想文を書くとしたら「なりたい仕事になれてよかったね、私も自分がやりたい仕事を見つけます」「じぶんのしたい仕事をがんばるってすごい。ぼくも夢をかなえたい」だろうか? それなりに書きやすいといえば書きやすいかもしれないが、読み継がれていく本とは思えなかった。

子どもの美術 6(図画工作教科書)

 

子どもの美術全6巻セット

子どもの美術全6巻セット

 

 6年生に向けた本書には、6年間の図工教育を通して伝え続けた創作の心がまえが総まとめされています。
うまく描こうとおもわなくていい、素直な心、飾らない心で。でも心はひきしめて。
確かな絵を描くには、確かな目と確かな手が必要。それらを育てるのは精一杯描くきみの心だ。
最後の安野光雅さんの文章は、「きれい」と「美しい」のちがいについて述べ、自然の美しさを感じる人に、と結びます。美術教師もし、教科書というものには反対、絶望しながらも、あえて佐藤忠良さんと教科書づくりに取り組んだことの希望の強さだと思います。
別冊に、出版社に届いた読後感が載っています。6年生の子が「ていねいな本だ」と!まさにこの言葉につきます。  (は)

子どもの美術 5(図画工作教科書)

 

子どもの美術全6巻セット

子どもの美術全6巻セット

 

 5年生になると、風景も人物もぐんと大人の絵になってくる。想像して描く場合も、象徴や抽象的な表現の域に入っていくようです。大人に近づく子どもたちへ、心を解放し自由に創作しようというメッセージを強く感じます。
「絵を見て、感じたこと」を自由に言ってみようという項目があり、アンリ・ルソーやダリの絵について好き嫌いを含め様々な感想が挙げられています。私は図工が苦手でしたが、感想を書くのだったら楽しかったかもなあと思います。
「焼き物の話」という文章は小学校教諭によるもの。縄文土器と現在のプラスチックの器を比べて「便利なら、なんでもよいというものではない」とつづられていますが、自分が使った図工の教科書に署名入りの文章なんてあっただろうかとはっとしてしまいました。  (は)