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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

12月の静けさ

 

ケリーは、美術は得意だけど数学は苦手、きちんとした弁護士の父親からはいつも「ちゃんとしなさい」と叱られている。友だちともうまくいかなくなってきて、なんだか居場所がない。そんな中、図書館にいつもいるホームレスのウィームズさんが気になってくる。最初は友だちのウケ狙いで声をかけたが、すぐに強い後悔に襲われる。声をかけても反応がないウィームズさんは、ベトナム帰還兵だという。同じくベトナム帰還兵の父は、帰還兵だってちゃんと働けばいいというし、司書たちもそっとしておいてあげなさいという。だが、たった一人で食べるものも寝る所にも困る生活を考えると、いてもたってもいられなくなってくる。しかし、必死の働きかけは、ウィームズさんの反発を招き、むしろ彼が図書館から追われるきっかけに使われてしまう。

思春期の傲慢さも感じるケリーだが、反発していた父が、ベトナム帰還兵としての苦しさを実は抱えていたことにやっと気づき、自分の善意が、必ずしもそのまま伝わらないという現実の中で、それでも何かしなければならないと必死になっていく姿は貴重。アメリカのベトナム戦争って、何だったのだろうと改めて感じ、未熟な空回りの大切さについても考えさせられる。