児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

マルコヴァルドさんの四季

 

マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)

マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)

 

 都会に住み、会社で下積みの仕事をしながら、どこか夢見ているようなマルコヴァルドさん。思いが先に行きすぎて夢破れる姿は、児童文学としてはちょっと切なく読者を選ぶと思うが、マルコヴァルドさんに心を寄せる子が確実にいそうな気がする。薪をさがした子どもたちが見つけた「高速道路ぞいの道」のちょっとはらはらする結末、霧の中で道を見失った末に飛行機でフライトしてしまう「まちがった停留所」などを見ていると、カルヴィーノはやはりこの世で生きることが間違いであるかのようにいつもちょっと戸惑っているマルコヴァルドさんが好きなんだろうなぁと思わされる。挿絵が、物語ととても相性がいい。

ちなみに、原書を見てみたら文法的に難しい用法が多用されていて、これはイタリアでもヤングアダルト向きだろうと思いました。この不思議な雰囲気を出すのは単純な直文ではでないんでしょうね。

キダマッチ先生! 3先生手紙をかく

 

キダマッチ先生!  3 先生 手紙を かく

キダマッチ先生! 3 先生 手紙を かく

 

 キダマッチ先生シリーズ3。ウサギのミミのミミムシを退治するのに、ミミムシ・スキムシを放り込み、クモの脳みそが偏っているようだとクモの頭をピンとはたいたりと、治療がだいぶいい加減になってきたのでは? さらにタイトルの「手紙」は、まちへ行って帰ってこないおくさんへの手紙で、しかもそれをクモの巣に向けて放りなげてくっつけるというのは大人にはそれなりにおもしろいかもしれないけれど子どもにはどうかな?という感じがしました。今回おにぎりを食べ、ミルク酒を飲んでいましたが、カエルの食性からいうとタンパク質系のミルクやチーズで食生活は一貫した方がよいのでは?と思いました。

キダマッチ先生 2.先生かんじゃを食べちゃった!?

 

キダマッチ先生! 2 先生 かんじゃを たべちゃった! ?

キダマッチ先生! 2 先生 かんじゃを たべちゃった! ?

 

 「!?」ではなくズバリ食べちゃったお話です。カエルのキダマッチ先生。ジャムパンばかり食べて体調がイマイチ。でもそれは過去に患者を食べちゃっトラウマのせい、というお話です。今日もコウモリの破けた翼にミシンをかけてあげたり、凍傷になったトカゲのしっぽを切ったりという大忙しの中で、昔、せっかく治療したメダカさんを後日何気なく食べてしまったことを思いだすのです。でもキダマッチ先生。カエルにジャムパンは無理です。せめてチーズパンとかどうでしょう? また、背に腹はかえられません。手術で切ったトカゲのしっぽとかおいしく召し上がってはどうか、とも思ったのですがそこまでは無理かなぁ。

キダマッチ先生 1.先生かんじゃにのまれる

 

キダマッチ先生! 1先生かんじゃにのまれる

キダマッチ先生! 1先生かんじゃにのまれる

 

 かえるのキダマッチ先生は、治療費をほとんどとらずにいろいろな動物の診療を続けるお医者さん。次々と患者がやってきます。こんな先生に愛想をつかして奥さんは出ていってしまいます。というよくある設定のおはなしだが、ちょっとリアルな挿絵のキダマッチ先生の絵はなかなか魅力です。それにしても、最後のページではヘビの患者さんが来ていて心配です。どうせなら『歯医者のチュー先生』みたいに、天敵との丁々発止をしてくれるとおもしろいのですがね。

オタマジャクシの尾はどこへきえた

 

オタマジャクシの尾はどこへきえた (子どもたのしいかがく)

オタマジャクシの尾はどこへきえた (子どもたのしいかがく)

 

 大人になるまで1~2年かかるウシガエルのオタマジャクシの成長のようすを紹介した科学絵本。あらためて気づけばそのとうりだが、オタマジャクシがカエルになる、ということは尾がなくなって足が生えてくるだけでなく、口の形から食べ物、呼吸方法も変わることだった。驚いたのは、口が変わる間、なにもお食べられなくなるとのこと! その食べられない時期に尾が分解されて体の中に栄養として取り込まれていくというのは、すごいですね。外見だけではなく、体の中の変化として”「ちょう」のつくり”として、水草を主に食べるオタマジャクシから虫を食べるカエルになる過程で腸が57cmから4cmにまで短くなる説明もあり興味深かった。こうした変化を引き起こしているのは甲状腺から出るホルモン働きに寄るとのこと、まだまだ知らないことが多いのだと感じました。

ゴリラは語る 15歳の寺子屋

 

15歳の寺子屋 ゴリラは語る

15歳の寺子屋 ゴリラは語る

 

ゴリラの観察しながらゴリラの生活を学び、ゴリラの群れに「ホームスティ」のように受入れてもらって研究を行った体験を語るノン・フィクション。威嚇をするがむやみに人間を襲ったりはしない穏やかな性格。子どもを忍耐強く可愛がる雄。とくに興味深いのは、対立はするがけんかをしないゴリラの姿勢。にらみ合うと周りから仲裁が入るという。人間でも、意見が違うことはある。自分は違う意見だと表明して、その上で争わない知恵というのはとても大切ではないだろうか? 現実的なゴリラの保護と、アフリカの人たちの生活の向上のため、著者はゴリラのエコ・ツーリズムを推進しようとしている。いい形でこれが実現すればよいと思うが、先進国の人間が傲慢な好奇心や財力で節度のない行いをしそうでちょっと心配。 

こんにちはといってごらん

 

こんにちはといってごらん (子どもの文学―緑の原っぱシリーズ)

こんにちはといってごらん (子どもの文学―緑の原っぱシリーズ)

 

 ねずみの女の子バネッサはとても恥ずかしがり屋で友だちもいません。おかあさんはちょっと心配で試してみなさいと励まします。でも、学校でも恥ずかしくてわかっている答えも手があげられません。勇気をだしてやぎのリサに小さな声で「こんにちは」をいったら「だから、なに?」と言われて逃げ帰ります。それでも頑張って次の日はヒキガエルのシグモントに、大きな声で「こんにちは」と言ったら声が大きすぎて驚いて逃げられてしまいます。落ち込んでもう何も言わないと決意した日、でも授業で誰も答えられない質問に思いきって答えたら、先生に褒められ前の席のオオジカのクウィンシーからも声をかけられます。やっと友だちを作ることができたささやかな物語ですが、リリアン・ホーバンの愛らしいバネッサの絵の魅力もあり楽しく読めます。ちょっとおとなしい子が読んだらはげまされるかも。