児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ケンタウロスのポロス

 

ケンタウロスのポロス

ケンタウロスのポロス

 

 人間や神々が自然の精(ニンフ)と交わることで生まれるケンタウロスは、全員が男で荒々しい性質を持っていた。だが、ポロスはケンタウロスではあるが、落ち着いて思慮深く暴力を嫌う若いケンタウロスだった。彼が旅のヘラクレスをもてなしていると、他のケンタウロスがからんでくる。反撃したヘラクレスにより数頭が殺されたことで、ポロスは仲間の恨みをかったため、ケンタウロスの賢者ケイロンのアドバイスを受けて知恵を求めて旅に出る。だがよこしまなケンタウロスのネボスは、自分の名をあげるためにポロスをつけ、不正に彼を陥れて金をせしめる。さらに、その金でケンタウロス一族を牧人から強盗団まがいの集団へ変えてしまった。一方ポロスは絆を結んだヘラクレスの祈りのおかげで救われ、さまざまな経験をし、アマゾン族でイリーネという少女を救う。聖地ドドナで神託を受け、イリーネと別れて故郷に帰ったポロスは、またしてもネポスの罠の中に飛び込んでしまう! ギリシア神話をモチーフにした物語は、予備知識の少ない日本の子にはややなじみにいくいかとは思うが、いきなりケンタウロスを殺戮するヘラクレス、青銅の巨人タロスとの対決などダイナミックで実直的な物語。佐竹美保氏の装画と挿絵もいいが、これもスタンプ・ブックスで軽い装丁にしても良かったのではと思う。ピウミーニはギリシア神話をモチーフにした作品が他にもあるが、神話自体の魅力に寄りかかるだけではない再創造がされている。

 

泥 (児童単行本)

泥 (児童単行本)

 

 森に囲まれた私立校ウッドリッジ・アカデミー。5年生のタマヤは悩んでいた。まじめで勉強熱心な自分の性格をみんながバカにしているのが感じられるからだ。金持ちで悪い噂が多い上級生のチャドみたいな子がみんなから一目置かれているのだ。そしてマーシャルは、ふとしたことでチャドにからまれ、クラス全員からシカトされる立場になっていた。タマヤとマーシャルは家が近く、タマヤの親は上級生のマーシャルに登下校の時同伴してくれるように頼んでいた。だがある日、チャドの待ち伏せをさけるためにマーシャルは森を抜けることに決めタマヤもついてきた。だが、チャドが気付いて追ってくる。チャドに組みつかれたマーシャルを助けようと、タマヤはとっさに近くの泥をすくってチャドの顔に投げつけた。無事逃げられた二人。だが、タマヤは家に着くと泥をすくった右手の発疹に気付く。手をよく洗って薬をつけるが、翌朝も発疹は広がっていた。放課後に病院に行くことに決めて登校したタマヤは、チャドが行方不明になっていることを知る! タマヤたちの学校のパートと森の中の研究所の公聴会のようすが交互に描かれ、徐々に恐怖感が増していくバイオ・ホラーになっている。だが、いじめられて反撃ができない気弱なマーシャル、ワルぶっているが孤独をかかえているチャド、いつも一所懸命なタマヤ、そしてその周りの学校の友だちの様子がよく描かれていて学園ものとしても十分に子どもたちの共感を誘うものになっている。ルイス・サッカーは『穴』がものすごくおもしろかっただけに、その他の作品がイマイチに見えていたが、これは思わず一気読みして楽しめた。

菜の子ちゃんと龍の子

 

 5年生のトキ子は、修験者の山である大峯山のふもとに住んでいる。秋も深まるある日、トキ子の教室に山田菜の子ちゃんは突然現れた。そしてトキ子に、1匹の龍の子が空にのぼる助けをするから手伝ってほしいと頼む。秋祭りの夜2人は、龍の子を無事に、空へのぼる入り口となる泉まで運ぶ。でも、弱っていたその龍は、空へ向かって飛び立つも、突風にあおられてしまう。菜の子ちゃんの呼びかけに現れた天狗の助けもあって、無事に龍を雲の上に見送ると、いつのまにか菜の子ちゃんの姿も消えていた。
巻末に、奈良県に実在する大峯山という山脈や白蛇伝説などについて解説がある。気楽に読めて、男女問わずにすすめられる。

みんなでつくる1本の辞書

 

 目からうろこが落ちまくりでおもしろい!日本語の数え方を研究している著者が、あるとき留学生に「なぜ電車も、柔道の勝負も『1本』と数えるの?」と聞かれたことから、助数詞の「本」について、その確かな説明を求めて調べていく。
まずは辞書にある定義「棒のような形をした長いものを数えることば」の具体的なイメージを探るため、どんな形をしたものを「本」と数えるか、学生たちへ質問。さらに、武道家や家具屋、電気屋さんなどいくつかの立場の人へもインタビュー。電車を「1本」「1台」と使い分けている駅員さんの説明には、普段あまり意識せず駅のアナウンスを聞き流していたので、今度耳をすませてみたいと思った。歴史的にも、「本」が使われるようになった始まりを、奈良時代、『古事記』や『万葉集』からひも解いていく。最終的に、日本人は「本」の使い方について共通のイメージを持ってはいるものの、使う人の立場・考え方や、そのもの・ことをどのように捉えているか、時代によっても変わることがわかる。「本」と数えるものやことを列挙したイラストがユーモラスで楽しい。巻末に索引があり、その数は364もある!
身近な問いから課題を見つけ、まず定義を確認してから、アンケートやインタビュー、文献等で調査していく。調べ方やレポートの書き方の参考にもなりそうだ。

ギリシア神話物語

 

ギリシア神話物語 (昭和50年) (世界の児童文学名作シリーズ)

ギリシア神話物語 (昭和50年) (世界の児童文学名作シリーズ)

 

 天から赤ん坊が泣きながら落ちてくる衝撃的なシーンで物語は幕を開ける。それはゼウスとヘーラーの間に生まれながら、みにくさのために母に捨てられるヘーパイトスの姿だ。海の女神テティスとエウリュノメーに救われ、美しいものを作る鍛冶の神として成長する。このヘーパイトスを軸として、陽気なヘルメス、悩むプロメテウス、奔放なゼウス、誇り高きヘーラーの織りなす華麗な神話の世界が描かれる。最後、ゼウスにより地上にたたきつけられながら、地上をみつめつつ美しい盾の模様を思うヘーパイトスと、それに手を差し伸べるヘルメスの姿の余韻が残る。

数え方のえほん

 

数え方のえほん

数え方のえほん

 

 クマやウサギなどのかわいいキャラクターたちが、まずは子どもが興味を持ちやすい食べ物の数え方から紹介していく。が、ロールケーキは「一本」でも、切ったら「一切れ」(または一個)、同じジュースでも何に入っているかによって「一缶」「一パック」「一びん」と変化する・・・とさっそく日本語の助数詞の複雑さに気づかされる。動物や虫の「一匹」「一頭」「一羽」の使い分けでは、ヘラクレスオオカブトなど珍しく貴重なものは「一頭」と数えることもあるなど、その存在の格付け(とでもいおうか)でも違う。和の衣食住や年中行事に関する事物については、子どもになじみのないものが増え、伝えるのが難しいと感じる。でも、月明かりを「一条」、虹を「一橋」と数えられたら趣があって素敵だ。
また、一という意味ではなく使う「ひとやすみ」「ひとっぱしり」や、飲食店の店員が勢いよく言う「〇〇一丁!」などを紹介しているのも、おもしろい。
これほど様々な数え方がある言語は世界でも珍しいそうで、ページを埋め尽くすように紹介される数え方や測り方の単位を見れば納得だ。日本語文化の奥深さ、日本人の自然や事物を見る目の細やかさを、改めて実感する1冊である。

性の絵本(全5冊)

 

性の絵本(全5冊)

性の絵本(全5冊)

 

 わが子の性教育についての悩みを、特に男の子をもつ母親から聞きます。学校でやるのを待っていたら遅いんじゃないか?!そもそも学校で行われる内容では足りない気がする。でも、わが子にどう話せばいいかわからないし、誰かうまく話してくれる人いないかしら・・・。
そんな大人におすすめしたいのが、この絵本5冊です。性教育は、家庭で機会を見つけて少しずつ、気軽に話していくのがいいようです。そのきっかけとして、この絵本を使ってみてほしいです。4半世紀ほど前の出版なので、性的マイノリティについて(第3巻「同性愛」)は説明を加える必要がありますが、性の話の大事な土台は変わりません。命の大切さ、生きることと性は一体、自分も相手も大切にできること、自分の心と体そして人生について自分で決められること。語りかけるような文章とソフトな印象の挿絵で、子どもが自分で読むことができます。1巻目の文章から、小学4年生~を対象としていると思われます。
各巻の内容:①生きるってどういうこと?・・・人生を15の動詞にまとめる。「育つ」「」なやむ」「ふれあう」「老いる」など。②子どもからおとなへ生きる・・・性器、月経、射精、自慰などについて。子ども本人はもちろん親も成長を喜べるようメッセージをこめる。③女と男 ともに生きる・・・恋愛、性交、妊娠、出産、避妊など。人権問題にもふれる。避妊の方法について具体的な説明を補足する必要があります。④なぜ、こんなことして生きているの?・・・科学ではなく人間の性の、社会、文化的な面について。人間観や男女観によって正解のない部分だからこそ、大人が勇気を出して子どもに伝えなくてはならないようです。⑤生きていくから聞きたいこと・・・主に小学生からの電話相談を受けている著者が65の質問に答える。これを読むときっと、子どもがさらに聞きたいことが出てくるので、質問されたときは身近な大人ががんばって答えてあげましょう。この5冊の本が、その勇気をくれます。