児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

シンドバッドの冒険

 

シンドバッドの冒険 (大型絵本)

シンドバッドの冒険 (大型絵本)

 

千一夜物語」(アラビアン・ナイト)の「船乗りシンドバッドの冒険」に語られる7回の冒険のうち1回目と2回目をまとめた絵本。全訳を読むのは難しい子どもでも楽しめる。
冒頭に、シェヘラザードという娘が王様に千一夜にわたって語ったという千一夜物語の発端があり、それから金持ちの商人シンドバッドが同じ名前の貧しい荷かつぎ男に、命がけの冒険譚を語り始める。
商人たちの船に乗りバグダッドを出て最初に上陸した美しい島が、実はクジラの背中だった。大海に振り落とされ波に漂ううちたどり着いた島は、山のように大きな卵を抱くロク鳥の島。その巨大な鳥の足にターバンで体をくくりつけて脱出するも、鳥が降り立ったところは大蛇がうようよしている谷。大蛇たちが守っていたのはまぶしく輝くダイヤモンドだった。ダイヤモンド商人たちは、崖から生肉を投げ落としてダイヤモンドをめりこませ、巨大な鳥がその生肉をダイヤモンドごと持ち出すのを狙っていた。その企みに気づいたシンドバッドは、大きなダイヤモンドを抱えて生肉にしがみつき大蛇の谷を無事に脱出。商人たちにダイヤモンドを譲って船に乗せてもらうと帰国の途へ・・・となるはずが冒険はまだまだ続く、また明日お聞かせしましょう、というところで終わる。
ギルガメシュ王ものがたり』3部作があるルドミラ・ゼーマンによる挿絵は、ペルシャじゅうたんを思わせる額縁が劇的な雰囲気を盛り上げ、その美しさは本人の言葉どおり「手触り」まで感じる。 

 

めんそーれ!化学―おばあと学んだ理科授業

 

 めんそーれ!化学―おばあと学んだ理科授業(岩波ジュニア新書)

       著者:盛口満  発行所:岩波書店   発行日:2018年12月20日

タイトルからわかるように舞台は沖縄だ。植物や昆虫などについてイラストをまじえて解説した著書も多いゲッチョ先生が、10年ほど前に那覇市の夜間中学で化学を1年間教えた授業記録。肉じゃが、ロウソク、コーラ(沖縄ではおばあもよく飲む)など身近なものを材料にした化学実験の数々も興味深いが、何か一言投げかけると生徒のおばあたちが口々に発言し始め、それを交通整理しながら、はたまたそこから展開させながら授業している様子がおもしろいし目からウロコが落ちまくる。戦中戦後の混乱で学校へ行けなかったおばあたちだけれど、その生活体験がハンパなさ過ぎるからだ。沖縄という土地、歴史、自然の中でおばあたちが子ども時代に経験したことは、授業を手伝う大学生ボランティアはもちろん、ゲッチョ先生も時にびっくりさせてしまう。おばあたちのおかげで、本書の”生活の知恵”度数が数倍上がっていると思う。現在は大学で、小学校教諭を目指す学生たちを教える著者は、子どもたちが「へえー」じゃなくて「ああ」と言うような授業ができたらいいねと伝えているそうだ。生活体験がますます乏しくなっている今の子どもたちに「ああ」と言ってもらうのはとても難しそうですが、未来の先生たちにがんばってもらいたいです。 

わたしがおとなになったら(自立のすすめ マイルール)

 

わたしがおとなになったら (自立のすすめ マイルール)

わたしがおとなになったら (自立のすすめ マイルール)

 

 毎日小学生新聞に連載された「自立のすすめ マイルール」というコラムをまとめたシリーズの3巻目。「子ども家事塾」を開催する著者が、家庭や学校生活、外出先など様々な場面でのマナー、コミュニケーションのこつ、自分の気持ちをコントロールする方法などを子どもにアドバイスする。500文字ほどの文章に、テーマをおもしろく展開した漫画がついて見開き2ページに収まる。漫画に登場するのは小学生の女の子まきっぺと親友もっちん、まきっぺが思いを寄せるまさやんなど、親近感のわくキャラクター。子どもが自分から手に取りやすく、うちの文庫でも借りた子から友だちへぐるぐる何度も借りられている。
80項目ある文章の中には、「女子たちへ」「男子たちへ」のようにたまに保守的な価値観が見えるものもあるが、「自分のからだを好きになろう」とか「いやな言葉を投げられたら」「私って何?」などがあって、親から徐々に離れて自分や人との関係を見つめ始める年齢の子に、自分で考えるきっかけとしてすすめられる。「名前が思い出せない!」ときのテクニックは、大人も(大人こそ?!)使ってみたい。

 

中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド(こころの科学増刊)

 

中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド (こころの科学増刊)

中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド (こころの科学増刊)

 

思春期の心と体の変化、恋愛と性、いじめ、自傷行為デートDV、虐待、ネットトラブル、うつ病、薬物依存・・・嵐吹き荒れるようなこの時期を中高生が無事に生き抜けるよう、その”サバイバル”術を様々な立場の大人たちが心をこめて、力をこめてつづるメッセージ集。その大人たちは、いじめ被害や薬物依存、うつ病の体験者、精神科や泌尿器科の医師、養護教諭、中高生を取材するライター、岩手県初の男性看護師、障害をもつ小児科医、ゲイの牧師、中高生に性教育を行っている僧侶、元AV女優などなど。それぞれの体験や専門、アプローチの仕方は異なるけれど、共通するものが見えてくる。
・自分を大切に思えること(自己肯定感)
・居場所があること
・人とつながること、人を頼れること
・そして、これらを難しくしているのは大人がつくっている社会の問題だということ
この本がいいのは、これらがなくて苦しんでいる、苦しんだ当事者の目線があって、自分の価値を低く考え責めてしまう思考や、生きたいからする自傷行為といったことを、あなたのせいではないしあなただけではないよと知らせてくれているところだ。18人のメッセージのどれかが、いま苦しんでいる中高生の心に届いて、今日を生きる支えになってくれたらと切に願います。 

 

 

性の多様性ってなんだろう?(中学生の質問箱)

 

性の多様性ってなんだろう? (中学生の質問箱)

性の多様性ってなんだろう? (中学生の質問箱)

 

 セクシュアリティ教育を専門とする著者が、中学生と対話しながら「性」について一緒に考え、偏った認識に気づかせてくれる構成で、とても読みやすい。
3人のセクシュアル・マイノリティ当事者の体験談コラムからは、結局、大人の方が受け入れてくれにくいのがわかる。3人のうち2人は教師をしているが、特に教育現場の意識改革が遅れていることがとても残念。子どもたちに正直な生き方を伝えたいのに、同僚の先生に伝わらない、カミングアウトできないそうだ。本文でも学校の不自由さの例として、男子トイレの小便器はなぜオープンなのか。全部個室にすれば「男子は学校でウンコをするのが恥ずかしい」問題も解決できるのにと。そのとおり!ずっと昔から、小学生だって、もしかしたら大人でも抱えている変わらない悩みです。
また、オネエタレントばかりが注目され笑いの対象となっているのは、女性の地位が低いというジェンダー・ギャップの表れである一方、年間3万人という自殺者の7割が男性であるのは、男性自身も男らしさに縛られ弱音を吐けないからだという指摘は、いたたまれない。
性の多様性を考えるキーワードは「対等」と「選択肢が多いこと」。この2つは性のことに止まらず、様々な社会問題、生きづらさを解決してくれそうだ。
巻末に、理解を深めるおすすめの本・絵本・マンガ・映画のリスト、相談窓口・情報サイトの一覧あり。

おしっこ”小”百科

 

おしっこ?小?百科

おしっこ?小?百科

 

 おしっこのことをまじめに多方面から解説したチェコの作品で、下手うまな感じのイラストが楽しい。著者は、7才の頃から22年もまじめにおしっこの勉強をしているという男性。なので「女の子のおしっこは扱っていません」とある。
どんな解説かというと、たとえば、おしっこしたいときの言い方。ちょっと化粧室に、自然が私を呼んでいる、雉を撃ちに行ってきます!、045番行ってきま~すなど、なるほど。各国の言語で言うと、おしっこなど下の言葉は日本でも子どもが喜ぶが、英語やフランス語の”PEE”(ピー)や”PIPI”(ピピ)もかわいくて子ども受けしそうだ。おしっこの使い道が様々に研究されていて、イギリスのバスは燃料に尿を入れることでスモッグを軽減しているとか。おしっこの歴史では、泌尿器に関する初めての著作をあらわしたのはチェコの医師だそうだ。極限な状況でのおしっこという項目に、まわしを締めたお相撲さんのやり方(想像)があり日の丸のはちまきをしている。あぁ、そういうイメージなのか・・・と。最後に、有料トイレ50%OFFになるかもしれないというクーポンが書いてあり、無料できれいに使える日本は本当に素晴らしいなと思います。

アイヌの昔話 森でひろったふしぎな赤ちゃん (イソイタク5)

アイヌの昔話 森でひろったふしぎな赤ちゃん (イソイタク5)
      文:寮美千子 絵:クロガネジンザ

      発行所:公益財団法人 アイヌ文化振興・研究推進機構

      発行日:2018年3月1日

シリーズ5巻目は、4つのふしぎな話に、歌と小さな話が6つ。
表題作は、三姉妹が森に1人でいた赤ちゃんを連れて帰り面倒を見ていると、実は大男が化けていて娘たちを食べようとしていることに気づき逃げ出す。追いかけてくる大男に向かって三姉妹が櫛や首飾りの玉を投げると、林や森、山になって大男の行く手をはばむところが「三枚のお札」のよう。やがて川に出て釣りをしていたおばあさんに頼むと、「かしこいモリー」(イギリスの昔話)の”髪の毛1本橋”ならぬ、おばあさんの足1本がにゅうっと伸びた橋が娘たちを向こう岸に渡してくれる。ところが、大男も渡っていく途中でおばあさんがくしゃみをして足を引っこめてしまい、川に落ちる。流木が大男の腹を突くと中から虫やらトカゲやらカエルやらが飛び出してきて、大男は死んでしまう。無事に家へ戻ってしばらくたったある日、家がもやに包まれて晴れてみると美しい三兄弟が立っており、三姉妹は結婚して幸せになって村も栄えたという話。
ほかに、ある若者が女の木カツラと男の木ハリギリで舟をつくったところ、その2つの舟が争うので1つを燃やして処分したらその怨念で顔体が真っ赤なかぼちゃのようにデコボコの異形の姿になってしまったという「カツラの舟とハリギリの舟」。「ハシボソガラスに助けられた男」は、女である海のカムイに見初められ冬の荒れた海に引き寄せられてしまった人間の男が、ハシボソガラスのカムイに守られ無事に妻のところへ戻る。「パナンペとペナンペ」は、やせた母犬を助けて金持ちになった正直者パナンペを真似した欲張り男ペナンペが犬のうんちの山に埋もれて死んでしまう話。
歌は、短い物語風(「クモの女神のうたう歌」「お婿さんにはだれがいい?」)と、掛け合いで歌うようなイメージのもの(「カラスのじいさん どこいった?」)。小さな話は3つとも由来話で、カラスの体が黒いのはアイヌの女性の入れ墨の水をかけられたから、むかしシカとウサギがかんじきと角を取り替えたからウサギには角がなく雪の上を軽やかに跳ねられること、魚のタラの大きい口、カレイの寄り目、ウグイのとんがった口の由来。
4巻までとイラスト担当者が代わりデフォルメした挿絵になってしまったのが、個人的には残念。