児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

子ぶたのトリュフ(2019年課題図書小学校中学年)

 

子ぶたのトリュフ

子ぶたのトリュフ

  • 作者: ヘレンピータース,エリースノードン,Helen Peters,Ellie Snowdon,もりうちすみこ
  • 出版社/メーカー: さえら書房
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 単行本
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 ジャスミンのお母さんは獣医、お父さんは農場を経営しています。もちろんジャスミンも動物が大好き。ある日、カーターさんの牛のお産についていったジャスミンは、豚も赤ちゃんが生まれたというので見に行きます。すると小さすぎてお乳が吸えずに弱っている子豚をみつけました。カーターさんに知らせても、あんなちっぽけなやつは助からないと相手にしてくれません。このままでは死んでしまう。なんとか助けようと、こっそり家に連れ帰り、お母さんが小さすぎる動物の赤ちゃんを助けたやり方でミルクを飲ませ温めて助けます。両親は無断で連れてきたことを怒りますが、カーターさんにも許してもらい飼えることになりました。でも、お父さんは豚が嫌いなので、飼うのは小さいうちだけという約束になりました。トリュフと名づけた子豚は、大きく賢く育ちます。鼻がいいのを利用して臭いで探す訓練をしても、よく覚えてくれました。仲良しのトムに、大きくなったら動物救急センターを作りたいという夢を語ります。ジャスミンを信用しているトムは、大切に飼っているモルモットを家族との旅行中にジャスミンにあずけてくれました。ところが、吹雪の日、風にあおられてモルモットの小さな小屋はひっくり返ってしまいました。見ると2匹のモルモットはいません。雪がひどくなったら凍え死んでしまいます。その時、トリュフの訓練を思い出しました。お願い、モルモットを探して!
ちょっと『シャーロットのおくりもの』を連想する物語だが、ここではジャスミンが主人公。作者は農場育ちとのことで、動物が大好きなジャスミンやまわりの動物のようすがいきいきと描かれている。挿絵も物語の雰囲気をよく伝えていてかわいい。動物が好きな子には特におすすめ。

魔女ののろいアメ(2019課題図書小学校低学年)

 

魔女ののろいアメ (PHPとっておきのどうわ)

魔女ののろいアメ (PHPとっておきのどうわ)

 

 遊びに行ってしまったおねえちゃんの分まで図書館に本を返しに行くことになったサキ。15冊も本を持って重くてたまりません。「おねえちゃんのばか」と言いながらあるサキの前に。アメ屋の屋台があらわれ、そこのおばあさんは、自分は魔女だといってのろいアメを売ってくれます。悪口を10個言いながらませると、まずくて一日気絶してしまうというのです。でも、悪口を言っているうちに、おねちゃんがやさしかったときのことも思いだしました。いつのまにかお姉ちゃんの好きなグレープ味のような見かけの呪いアメができていました。けれども、そこにおねえちゃんが迎えにきます。おねえちゃんが、おいしそうと食べようとすると思わずとめ、アメは手が届かないところにとんでいきます。サキはおねえちゃんに、あれはのろいアメだったから食べさせたくなかった、と10個の悪口を言ったことを話し、あやまりますが、おねえちゃんは悪口は頭にきてもサキをきらいにはなれないと言い、サキは自分も同じだと思います。一方、落ちたアメは手下のカラスが拾って魔女のところに持って帰ります。うっかりなめてしまう魔女ですが、気絶しないし、ところどころ甘いので首をかしげました、というお話。道徳教材のようで、「私もきょうだいとけんかしちゃいますが、きらいになれません」と、けんかのエピソードの一つくらい入れれば、感想文らしいものがかけそうな本。だけど、突っ込みどころが満載! 魔女だと言われておびえるのに「いい魔女」と言われて安心するけど「のろいアメ」売る時点で「こんなの売るなんて悪い魔女じゃないの?」と反論しないの? アメ10円なのに、自分用を買わないで「のろいアメ」だけを所持金20円全部を払って買うほど怒っていたの? おねえちゃんは昼食後すぐ消えたらしいけど、サキがいるところがわかって迎えに来れたのはなぜ?(お母さんは、帰宅していないからお母さんからきいたんじゃないはず)。本を15冊(自分用は5冊としても)返却して、1冊も借りたようすがないのも実は気になる。さらに、迎えに来て「さっさと帰ってこなくちゃ」と怒ったおねえちゃんに、「おねえちゃんの本もあったのに」と反論するサキに、「今度は私がサキの本も返しに来るから」と流されてるけど、そこは「返してくれてありがとう」か「重い思いをさせてゴメン」と言って欲しいよね。そんな態度の姉に、悪口いってゴメンとか言わずに怒れサキ! なんだか、主題(いじわるなようだけど、実は大切な存在である姉)のまわりに、エピソードをくっつけて仕上げた感じで、本当に姉妹とけんかしたリアルな悔しさや、それの克服があんまり感じられない。

スタンリーとちいさな火星人(2019課題図書小学校低学年)

 

スタンリーとちいさな火星人

スタンリーとちいさな火星人

 

 かあさんが、仕事で泊りがけで出かけた日、スタンリーも庭の宇宙船で火星に向かった。庭に戻ってきた宇宙船に乗っていたのは火星人(スタンリーそっくりだけど!)、ウィルにいさんもとうさんもスタンリー火星人をちゃんと火星人として認めてくれる。だけど、地球人としてどうしてもしてもらわなきゃいけないことは、しなきゃいけなくなるけどね。でも学校では火星人だと認めてくれない友だちとけんかをして、叱られてしまう。そしてお母さんが夕方帰ってきて火星人にであうと、火星人は急いで庭に行き、火星に飛び立ちます。手を洗わなかったり、友だちとけんかをしたりする悪い火星人はいなくなり、帰ってきたスタンリーとおかあさんは、互いに「あいたかった!」と、喜びます。かあさんがいなくてさびしい日を火星人になることで乗り切るともいえるし、さびしくて火星人になってしまう、ともいえる設定は、低学年よりもう少し年齢が上の子の方が、客観視して受け止めやすいかもしれない。この作品でいいのは、お兄さんも、とうさんもごく自然にスタンリーを火星人として受け止めてくれること。火星人ごっこをしても楽しいかも。

心ってどこにあるのでしょう?(2019課題図書小学校低学年)

 

心ってどこにあるのでしょう?
 

 作者がシンガーソングライターやエッセイストでもあるという経歴を見て納得。ムードはあるけれど、よく意味がわからない絵本。そもそも「心とは何か?」を考えないでどこにあるか?と聞かれても・・・。「心」自体を問題にしなくていいの? 「心ってどこになるのでしょう? すきなひとにあうと ほっぺがまっかになった。 心はほっぺにあるのでしょうか?」と始まりますが、なるほど、これを曲にのせたらそのまま楽しく聞けるのかもしれませんが、私は混乱しました。「すきなひとにあうと ほっぺがまっかになった  わたしのほっぺになにがおこったのかしら? 」という問題のような気がします。また「ぼくは いやなことがあると おなかがいたくなるんだ だから 心はおなかにあるとおもう」も「ぼくは いやなことがあると おなかがいたくなるんだ おなかもいやがっているんだな」という感じ? 「心」という抽象的なことをつきつめずに、「気分」位に扱えば、感想文が書きやすい本だと言えるかもしれません。つまり「わたしも、ろうかでハナちゃんとぶつかって、ハナちゃんににらまれたら、ぶつかった肩よりも、目がパチパチして涙がでてきました。だから、心は目にあると思いました。」みたいに、てきとうにいくつかエピソードを考えれば書けそうな気がします。でも、心をそんなに軽く扱っていいのでしょうか? 個人的には強い抵抗感があります。低学年は、抽象的な思考を育てていく時なので、「場所」ではなくて、自分の中で何かが起こっている不思議をまず受け止めて欲しいです。

もぐらはすごい(2019課題図書小学校低学年)

 

もぐらはすごい

もぐらはすごい

 

 作者は社会学部出身で美術学校スクリーン工房等で学び、他にも植物をテーマにした児童書の実績はあるが、モグラの専門家ではない。モグラの専門家の監修は受けており、巻末に文章を載せている。全体に淡々とモグラの解説をしているが、正直、モグラについてよくわからなかった。これは、モグラについて不明なことが多いためでしかたがないせいだろうか?例えば、基本の「掘る」ところ、大きな手で土を掻き出すとあるが、図で見ると、掻き出したところは、後ろより広い。この後、この土はどう動くのだろう。「ほったつちのあまりはじめんのうえにおしあげる。」というが、余らない土はどう処理されているのだろう?圧縮??? それっぽいけれど、どうもわからない。「すごい」というポイントは「アイマー器官」と呼ばれる鼻先の器官の働きによると思われるが、これはモグラしか持っていないのか? ヒミズモグラとどう違うのか? たくさん食べるとか住処が広いとか、どうやってし調べたんだろう? 漠然とわかるが、穴の掘り方ひとつとっても具体的なことが理解できないというのはどうなのか? もし、これで感想文を書くとしたらどうすればいいだろう? 砂場で山を作って、それにトンネルを作る穴掘りとか、小さい子には身近だと思うけど、私がやるならそういう実体験をしてみてモグラがしていることを考えるかな? と思った。

ルソンバンの大奇術

 

ルソンバンの大奇術 (福音館創作童話シリーズ)

ルソンバンの大奇術 (福音館創作童話シリーズ)

 

 実は冒頭シーンでつまずいた。目玉焼きにやさしくキスするように黄身に口をつけ、ゆっくり中身を味わう、と書いてあるすぐ後に目玉焼きをキレイな三角形に切り分けるシーンが登場するのですが、この目玉焼きは黄身を吸い出された真ん中がへこんだ目玉焼き!? だとするとイマイチおいしそうではない感じなのですが・・・。物語全体に、ちょっとこういう混乱を感じた。最高のマジシャンだったルソンバンが、落ちぶれた毎日をおくっている描写から、過去の大失敗、そして再チャレンジの大成功、にもかかわらず去っていくという展開がオシャレといえばオシャレなのだろうけれど、具体的にイメージしていくとなんとなくつじつまが合わない感じがするのだ。友だちになったのら犬と男の子テレピン。そののら犬が捕まってしまった時に、心理テクニックを利用して巧みに救出するところはとてもテンポがよいが、その他はバラバラな感じで、連作短編としてそれ単独でも読めるように整理したならば、もう少しまとまった感じで読めたかもしれない。ひょっとするとこういうのが好きな子がいるかもしれませんが、個人的にはちょっと・・・でした。

正しい目玉焼きの作り方:きちんとした大人になるための家庭科の教科書

 

正しい目玉焼きの作り方:きちんとした大人になるための家庭科の教科書(14歳の世渡り術)

正しい目玉焼きの作り方:きちんとした大人になるための家庭科の教科書(14歳の世渡り術)

 

 

 ”14歳の世渡り術”というシリーズ名から中高生向きに見えますが、本書は「大人」が家庭科を学びなおすという内容です。
「洗濯」「料理」「片付けと掃除」「裁縫」の4分野について、家事アドバイザー、管理栄養士、お掃除オーガナイザー、ソーイング教室主宰・デザイナーの各氏が担当。各章冒頭に家事力なしの社会人1年生姉と家事の上手な大学1年生弟のエピソード漫画があり、続いて専門家が解説していくという構成で気楽に読めます。

でも家事があまり得意でない私としてはもっともっと簡単にしてくれないと、そこまで出来ない~と思う部分が多々ありました。そういう意味では、クライ・ムキさんのまち針を使わず文房具のミニクリップや洗濯ばさみで代用というハードルの下げ方はやる気にさせてくれます。

そして本書と比べてもやはり、小中学校の家庭科教科書は使える!と再実感しました(片付け・掃除については弱いですが)。教科書は一般の人でも購入可能です。生活体験を重ねた大人こそ本気になれておもしろい家庭科の学びなおし。おすすめです!