児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

発明戦争 エジソンVSベル

 

発明戦争―エジソンvs.ベル (ちくまプリマーブックス)

発明戦争―エジソンvs.ベル (ちくまプリマーブックス)

 

 理系で録音技師の経験も持つ著者が、エジソンの宣伝を元に文系作家が量産したエジソン伝に疑問を感じて書いた作品だけあって、実際にエジソンはどういう理解をして何を発明したのかを描いてあり、とても説得力があっておもしろかった。学校教育をきちんと受けていないために技術者の提言を受け入れずに失敗しながらも、宣伝上手でさまざまな発明を自分のものだとしながらも、事業家としては失敗していく姿。彼の激しさを代々の反逆の血筋(なんと祖父はアメリカ独立戦争でイギリスにつき、父は北に住みながら南軍に走る!)、よく他の伝記でも書かれるが子ども時代から近所の小さな子を水に突き落としたりシャボン液を飲ませるなど非人間的な実験をしてのける感性の異常さ(これを天才ゆえと描くほとんどの伝記作家は完全におかしいと思うが、それが通用するのがコワイ)を客観的に描いている。対して宣伝を嫌い、きちんとした科学知識を持って着実に積み重ねていくベルは、結局のところ事業化・商業化にも成功していくようすをみていると、いくら宣伝しても基本や継続性がないとダメなのね、とよくわかる。とはいえ、敵をつぶしまくり特許戦争に血眼になり、暴力団まで使うあくどさながらも、カンがよくやるときはきっちりとやろうとするエジソンの功績もきちんと押さえてある。何より著者は技術者らしく、エジソンやベルが実際にどんな発明品をつくったのかの仕組みを、文系人間でもついていけるように的確に挟んでいるが、これが全体に効果を上げていて面白い。エジソン伝を子どもに読ませたい大人は、まず自分でこれを読んでみるのが良いだろう。

先生が本(おはなし)なんだね

 

先生が本なんだね

先生が本なんだね

  • 作者:伊藤明美
  • 発売日: 2016/11/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

著者は、実際に長年図書館でおはなしを語ってきた経験を元にしているだけに、説得力がありわかりやすい。具体的なプログラムの作り方や語るテキストについての紹介もあり実践的。実践者としての言葉として、現場ではいろいろなトラブルが起こる(他のクラスの笛の音がうるさい、ハチが入ってきた!など)だが、そうした中で、おはなしを子どもたちと楽しむことが第一という姿勢でハプニングに苦情をいわないという姿勢が魅力。語り手になりたい方のよい参考になる本。 

ぼくだけのぶちまけ日記

 

ぼくだけのぶちまけ日記 (STAMP BOOKS)

ぼくだけのぶちまけ日記 (STAMP BOOKS)

 

ヘンリーは父さんと二人で暮らしている。転校した学校でも孤立しているが、見るからにオタクで友達がいなさそうなファーリーになつかれてしまった。セシルというセラピストのところに通うヘンリーには何か深刻な事情があるらしい。ファーリーに連れていかれたクイズ研究会。そこでちょっと個性的な女の子、アルバータと出会う。父さんと二人で暮らすアパートには、ケバくて父さんにモーションをかけてくるカレンや独り暮らしがさびしいのかカレーを差し入れてくれる隣人アタパトゥさんがいてイラついている。徐々にヘンリーには兄ジェシーがいたこと、そしてひどいイジメにさらされていたこと、とうとう耐え切れなくなった兄が恐ろしい事件を起こしたことがわかる。(父親の銃を持ち出して相手を撃ち、自分も自殺するという大事件をおこしたことがわかる。)一家はそれまで住んでいた所から逃げ出し、母親は心を病んで入院してしまった。周りに知られずにおびえて生き続けるしかないのか? 両親はもうもとに戻れないのか? 13歳には過酷な問題を抱え込んだヘンリーが、必死に生きていくようすを悲劇的にではなく、どこか不思議なユーモアを交えながら説得力をもって描いている。

電話がなっている

 

電話がなっている (ニューファンタジー 3)

電話がなっている (ニューファンタジー 3)

  • 作者:川島 誠
  • 発売日: 1985/06/05
  • メディア: 単行本
 

少し古い作品を読むと、時代の変化を感じることがある。この作品、今の子が読んだら共感するところもあるだろうが、違和感を感じるところもある気がした。表題作『電話がなっている』は、人口が増えすぎた社会が背景だが、今は少子化が問題。そして15歳の選別試験で幼馴染の恋人と運命が分かれる苦しみを描いているけど、彼女は事故で障害を負ったために試験さえ受けられずに肉として処理されてしまうという設定は、やはり当時の障害者差別が背景にあるだろう(作者がではなく、社会の)。現在でも差別は続いているが、事故の怪我くらいで試験さえ受けられないというのは非現実的に感じる。ちなみに、ここで二人の間の初体験が語られるのだが、どうも初潮がきたとたんにチャレンジしたようだが、生理中だからか? コンドームを使っていないのも、今の子的にはどうだろうか? 受験へのストレス作品が多いのも、やはり時代かも。自慰や排便などがその発散のように描かれているけれど、そういうことをしている子がみんな男の子なのも、やっぱり時代かな。当時20代の著者による作品で、あとがきによると賛否両論があったようだが、たぶん「児童文学」として出版されたからであり、SFマガジンあたりに投稿したら別にショッキングな作品扱いはされなかったように思った。今の子が読んで、一番違和感がなさそうなのは『田舎生活』かも、とも思ったけれど、都会から田舎に移って都会生活から引き離された怒りが主題。ただ、ネットでほしいものを手に入れるからそれでストレス発散するかな? 作品が時代を超える難しさを感じさせられました。 

子どもの本のもつ力 世界と出会える60冊

 

子どもの本のもつ力:世界と出会える60冊

子どもの本のもつ力:世界と出会える60冊

  • 作者:清水 真砂子
  • 出版社/メーカー: 大月書店
  • 発売日: 2019/06/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 「かわいい」がとりこぼすものは?/ひとり居がもたらしてくれるもの/毎日は同じじゃない/「たのしい」だけで十分!/子どもが〝他者"と出会うとき/現在と昔とこれからと―以上6つのカテゴリーに分けて主に児童文学を紹介している。78歳になりながらも、いつもの清水氏の主張が繰り返され、めだたないこと、暗いこと、一人でいることなどの排除するかのような現在の息苦しさに対抗するための読書体験について語っている。紹介されている本はほぼ読んでいるが、もう一度読み返そうかという気持ちにさせてくれる。

めんどりがやいたパン 中央アジア・シベリアのむかしばなし集

 

 昔話集だが、あまりこれまで取り上げられてこなかった地域のものが収録されていて楽しい。他の地域にも似たお話がある作品としては「カエルのむこどの」(川を脱ぐと美しい若者)、「かしこいダヌイシマン」(賢いお妃物語だが、3つの謎など細部がユニーク)がある一方で、「トラのおんがえし」では恩返しだけではなく、それを活かした主人公の男の子の商才、その他この地域の動物たちの姿のいわれにつながるものなど地域性を感じるものが特に面白い。文字が大きめなので小学校の3年生位から自分で読めるだろうが、読んであげればもっと小さい子でも楽しめる。

実験犬シロのねがい

 

実験犬シロのねがい―捨てないで!傷つけないで!殺さないで! (ドキュメンタル童話シリーズ犬編)

実験犬シロのねがい―捨てないで!傷つけないで!殺さないで! (ドキュメンタル童話シリーズ犬編)

  • 作者:井上 夕香
  • 出版社/メーカー: ハート出版
  • 発売日: 2001/03/09
  • メディア: 単行本
 

これは、ノンフィクションだと思われるし重要なテーマではあると思うが、あまりにも記述があいまいなので、子どもたちにもっと情報を与えて欲しいと思った。安易に捨てられて殺処分されるペットや残酷な動物実験は許されない。だけれど、冒頭の卓也くんが保健所から犬を取り返すエピソードにしても、やはりこの後、家で犬に避妊手術をしたのか? あげた犬にも避妊手術をしたのか?と気になった。最初にきちんと犬を飼う覚悟について書いてあるのだから、それに沿ってきちんと飼育する日常をおくる卓也くんの姿を書いてもらうと、犬を飼っていない子どもたちは、「項目」としてだけではなく、具体的に何が大変か理解しやすいだろうし、より現実的に犬を飼う選択について考えられるだろう。また、実験動物で問題を起こした施設名や、残酷な動物実験をした企業名が書いてないが、これはなにか事情が? ノンフィクションなら、日時場所を淡々と記述することで「本当にあったことなのだ」と子どもたちは納得してくれるだろう。動物実験が、動物に負荷をかけるのは事実だが、「シャンプーの原液をうさぎの目玉にかけ続けて目を溶かす」というようなグロテスクな実験を描写し、最後にでも「世界のあちこちで、動物実験以外の方法をすすめているよ」との趣旨書かれているが、これでは子どもは傍観者のよう。ひょっとすると、自分がシャンプーの新製品を欲しがることが動物実験に加担したかも、と自分の生活を見直して、誰かがやってくれるから安心だねみたいにならないようにしたい。また、この本では研究者は、動物をいじめて楽しんでいるサディストのように描かれているが、さすがにそれもどうかと思う。一部にそうした人や、過去にそうした意識があるにしても研究者の中にも良心的な方もいるはず。愛護団体が正義で研究者が悪者軍団みたいに描くよりは、双方の努力でよりよくなる未来を見つけて欲しい。