児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

コヨーテのはなし アメリカ先住民のむかしばなし

 

 アメリカ先住民やメキシコの人たちが最もかしこいと考えるコヨーテについての昔話が17編。
コヨーテは、太陽や月、星をつくり、人間に火や四季をもたらしたほか、ピューマの王と王妃のいさかいを裁定したり、貧しいまま娘にきれいな衣装を与えて祭りに行かせたりするなど知恵と力をもつ存在である一方、バッタや松やに人形にだまされたりする少し抜けたところも。ヴァージニア・リー・バートンの躍動する挿絵が物語をいきいきとさせています。  (は)

黒おばさん 子どものためのメルヘンと物語

 

黒おばさん 子どものためのメルヘンと物語

黒おばさん 子どものためのメルヘンと物語

 

 幻冬舎の出版!?とちょっと意外であったが、オーソドックスな古風の創作昔話。「黒おばさん」というのは、黒髪でいつも黒い服を着ているところからついたおばさんのあだ名で、このおばさんが昔話をしてくれた、という展開になっている。これは事実で『ふしぎなオルガン』の作者レアンダーの実際の叔母だったとのこと。『マッチ売りの少女』のような悲劇的だが美しい死が描かれた『マリーヒェン』、ちょっと教訓的なところがある『紙とインクとペン』、ちょっとナンセンスな味わいもある『小さなヴィルヘルムがふさぎ虫をつかまえた話』など、いろいろなタイプの話があり、多少古めかしいものがないとはいえないが今の子でも十分に楽しめる。

クリスマス

 

クリスマス

クリスマス

 

エス誕生の物語から、クリスマスのお祝いやサンタクロース、飾り付けやプレゼントの由来を説き明かします。
エスが誕生する以前、人々は12月に冬至の祭りを行い太陽の復活を祝していました。いまクリスマスに、モミの木やヒイラギなど常緑樹を飾ったり贈り物をし合ったり、クリスマス料理を食べたりする慣習は、古代ローマ人が行っていた農耕の祭りに由来します。北欧神話の神から老司教・聖ニコラウスへと変わったサンタクロースの起源。イエス誕生の場に居合わせた動物や小鳥たちの働きをねぎらうために、クリスマスには手厚く食べ物を与えたり猟をしなかったりする地域もあること。日本ではイベント的にクリスマスを楽しんでいますが、イエス誕生の物語、お互いや生き物たちを思い合う気持ち、自然の恵みや春に向かう喜びを今年は感じてみませんか。  (は)

クルミわりとネズミの王さま

 

クルミわりとネズミの王さま (岩波少年文庫)

クルミわりとネズミの王さま (岩波少年文庫)

 

クリスマス・イブ。マリーと兄のフリッツは、手先の器用なドロッセルマイヤーおじさんが作ってきてくれるプレゼントをとても楽しみにしていました。ところがその日マリーの心をとらえたのは、おじさん渾身の機械仕掛けのお城ではなく、小さくて不格好なくるみわり人形でした。その夜、マリーはくるみわりを隊長とする人形たちとネズミ軍との戦いでくるみわりを助け、そのお礼にお菓子の国へ案内してもらいます。マリーはドロッセルマイヤーおじさんが聞かせてくれた、ある姫と魔女と器用な時計師の物語から、魔法でくるみわりの姿にされてしまったのは、おじさんの甥だと確信。その折、おじさんとともに、くるみわりの衣装そのままの若者がマリーのもとへやってきて、マリーはお菓子の国のお后に迎えられたのでした。

始まりは確かに現実なのに、最後はマリーの夢なのか現実なのか不思議な余韻に包まれます。そういえば小学生の頃クリスマスの楽しみは、友人の出演するバレエ「くるみわり人形」でした。あの場面はそういうことだったのかと思い出しながら読みました。 (P) 

フランダースの犬

 

フランダースの犬 (岩波少年文庫)

フランダースの犬 (岩波少年文庫)

  • 作者:ウィーダ
  • 発売日: 2003/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

表題作と「ニュルンベルクのストーブ」の2編を収める。どちらも街並みや自然の風景描写が繊細でとても美しい。
フランダースの犬」はアニメの印象があまりにも強いが、文章で読むとなお悲しみが深い。少年ネロと老犬パトラッシュの貧しい暮らし、絵の才能やそれを認めてくれる少女との恋。クリスマスの朝すべてが報われるには遅すぎた結末は、悔やまれて仕方がない。
一方「ニュルンベルクのストーブ」は芸術を愛する少年の話として共通するが、こちらはハッピーエンド。母を亡くし体の弱い父と10人きょうだいで暮らす少年アウグスト。一家の自慢は芸術家アウグスティン・ヒルシュフォーゲルの名を冠した堂々たる陶器のストーブで、とりわけアウグストはこのストーブを愛し心の支えにしていた。しかしある日突然父親は、借金の返済にあてるため小賢しい商人に二束三文で売ってしまう。アウグストにとってヒルシュフォーゲルとの別れは我が身を裂かれるかのよう。ただ離れ難い一心でストーブの中に隠れこんだアウグスト。ストーブが売られた先はなんと王宮で、若き王は中から出てきたアウグストの話を聞き、ヒルシュフォーゲルの価値に見合う代金を父親に与え、アウグストをストーブ係として雇い絵を学ばせることも約束したのだった。こちらは感傷的ではなくアウグストの行動に引きこまれて読めます。(は) 

こねこのバベット

 

こねこのバベット

こねこのバベット

 

『クリスマスのこねこ』(1980、大日本図書)を改題。ある日、チャッティが一人で留守番をしていると、かわいいこねこが迷いこんできました。チャッティはさっそく「バベット」と名づけて、ミルクをやったり遊んだり。でもバベットは、同じマンションに住むトッドさんのうちのねこでした。そこでトッドさんは、毎週チャッティが留守番の日にチャッティにこねこを預けることにしました。クリスマスが近くなり、バベットへのプレゼントを用意したチャッティ。ところが、トッドさんが引っ越すというのです。泣き出すチャッティ。いよいよクリスマスの朝。「クリスマスおめでとう!」と訪ねてきたトッドさんが差し出した箱からとび出したのは、こねこのバベットでした!
シンプルな挿絵で絵本と物語の間くらいなので、自分で読み始めた低学年の子に。 (は) 

しあわせのテントウムシ

 

「小さなスプーンおばさん」のプリョイセンによる短編が6つ収められ、うち2編は、ノルウェーでクリスマスにプレゼントを配るクリスマス小人の話です。

「大工のアンデルセンとクリスマス小人」は、クリスマス小人に扮した大工がクリスマス小人の子どもたちや奥さんにおもちゃや台所道具を作って喜ばれる。「ちいさい男の子とクリスマス小人の列車」では、ある女の子が小人の国の男の子とショーウインドウのクリスマス飾りを見ていると不思議なことが起こる。ほかに、指に止まったテントウムシに願いをかける女の子(表題作)や、ひとり者のくつ屋がバザーで人形をもらい夢に現れた人形の言うことをやっているうちに暮らしが楽しくなる「くつ屋さんのお人形」。昔話の味わいを知っていると楽しいのは、昔話の冒険をなぞって遊んでみた「おはなしの男の子」や最後の「王さまにおかゆのたべかたをおしえたむすめ」です。  (は)