児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

いのちと放射能

 

いのちと放射能 (ちくま文庫)

いのちと放射能 (ちくま文庫)

  • 作者:柳澤 桂子
  • 発売日: 2007/09/10
  • メディア: 文庫
 

生命科学の観点から放射能の恐ろしさを訴える本書。放射線の種類や単位を使った複雑な説明もあるが、わずかな放射線によって傷つけられたDNAが「未来永劫」遺伝し蓄積されていくことが何よりも恐ろしい、という「いのち」への影響に的をしぼった主張はとてもわかりやすい。人の命や環境よりも便利さや経済が優先されている。「国家が、会社の幹部が、学者が、いかに頼りないか」・・・本書は初め、チェルノブイリ原発事故を機に書かれましたが、3.11の原発事故やコロナ禍の今もまさにそのとおりです。だからこそ「ひとりひとりが自覚して行動する勇気をもとう」。考え行動するための1本の軸をもらって、何度でも気づいた時から始めなければ。

一般書ですが中高生にもぜひ。理科、社会、保健体育、国語(高村光太郎など詩や散文が出てきます)、さまざまな機会に紹介してほしい。  (は)

列車探偵ハル 王室列車の宝石どろぼうを追え!

 

 蒸気機関車の王室列車ハイランド・ファルコン号に叔父と共に乗車することになったハリソンことハル。叔父のナサニエルは有名な旅行作家なのだ。だがハルにとって、母親に赤ちゃんが生まれるというタイミングでの旅行は、追い払われるようで気がのらない。ところが車内で不思議な女の子を見たことで気持ちが変わり始める。この列車には子どもは他にいないと聞かされていたのだ。実は彼女は機関士の娘でマーリーン。機関車大好きでこっそり密航してきたのだ(走り出して早々、父や乗組員には打ち明けたが)。彼女のおかげで徐々に機関車への興味が高まる中で、列車内で宝石盗難が発生。そして王子妃の大きなダイヤモンドのついた首飾りまで盗まれてしまった。ハルとマーリンは、二人で真犯人を見つけようとするが、逆にマーリンが犯人としてつかまってしまった。列車は4日間で終点に着く。それまでにハルは真犯人を見つけられるかという推理もの。途中で盗難方法と隠し場所、犯人もわかったので推理が好きな子なら真相がみやぶれそう。ただ蒸気機関車の蘊蓄などもあり列車好きにはたまらないかも。程よくきちんと書いてある良心的な作品という感じです。

中高生のための「かたづけ」の本

 

”かたづけ力をつけて自分らしい人生を手に入れよう”ということだが、むしろ大人へ向けてのメッセージに感じる。というのも、ほぼ全体を執筆している杉田明子さんは一般家庭や会社に出向いてかたづけ指導をしていて、紹介される事例は”大人”ができていないかたづけ問題。それが子どもを含む家庭全体や会社全体に及んでいる。家庭でも学校でも教えないかたづけを子どもができないのは当たり前。逆に、教えて練習すれば3歳でもできますよ!という論です。

ポイントは”キレイが気持ちいい”という体験と、スーパーのように分類されてスペース(容量)を決めた環境づくりとのこと。具体的な手順としては➀すべて出す➁分ける➂選ぶ➃収める、と数多ある”かたづけ本”でよく見るワードですが、本書は「捨てる」がないのが特徴です。”プロ”(他人)が決めた基準で捨てても一時的にキレイになるだけ。失敗と練習をくり返しながら、自分にとっていい選択をする力(モノの、そして人生の)を体得することが大切とのこと。

年度末、子どもと一緒にすっきり体験してみましょうか!! (は) 

10分あったら・・・

 

 パリから郊外の田舎町への引っ越しでうんざりしているティム。一人で2日間で留守番になったけど友だちはいないし、遊びに行けるような所もない。お父さんとお母さんは、会社の突然の解雇への抗議の裁判のためにパリにいくのだが、ガス湯沸かし機の取り付け工事のためどうしても留守番が必要で残されたのだ。「10分あったら壁紙でもはがしておいてくれ」と、出がけのお父さんから言われ、ダサイ壁紙をはがし始めたところ妙なメッセージを発見。直後に隣の家のちょっと変わった女の子レアが「この家には殺人事件があったのよ」と不気味なことをささやいてきた。ネットで調べると、たしかにこの家の以前の住人が銀行から金の延べ棒12本を盗み、刑期を終えて戻って早々に階段から落ちて死んだことがわかる。どうやら壁紙の下にはその手掛かりがあるらしい。ティムはレアと組んで、壁紙をはがしてお宝の手がかりを探ろうとするが、やってきたガス工事屋、壁紙の下から出てきた名前の男など、次々に怪しい人物が現れる。最後に発見された意外な隠し場所も良くできていて、ハラハラドキドキのミステリーとしても楽しめる。フランスの児童文学というと、イマイチと思っていたが、なかなか楽しい佳作。

名探偵カッレ 危険な夏の島

 

前巻「地主館の罠」から1年。カッレ、アンデッシュ、エヴァロッタたち3人の夏休みは親の手伝いでバラ戦争もままならない。そこで敵軍のシックステンらと相談し深夜に決戦を定める。ところが”命がけ”の戦いの帰り道カッレたちは、怪しい男らが大学教授と5歳の息子ラスムスを誘拐する現場を目撃。エヴァロッタはとっさに2人の乗せられた車に忍びこみ、カッレとアンデッシュはそれを追うことになった。犯人の狙いは教授の発明「防弾軽金属」を記した書類。犯人のアジトは海に浮かぶ小島にあった。
4泊5日にわたる犯人との”死闘”はスケールを増し、バイクとボートを使った追跡や海外逃亡用の水上飛行機、無線で伝えるSOS。エヴァロッタが書類の隠し場所をカッレに伝える”山賊言葉”や追っ手のかわし方などバラ戦争の経験も存分に生かされる。しかも今回は、5才のラスムスの無邪気さにカッレたちも誘拐犯もほんろうされ度々ピンチに陥る。ハラハラどきどき、泣いて笑って大団円の展開はさすがです。 (P) 

名探偵カッレ 地主館の罠

 

なんだか落ち着かない時こそ、おもしろい!とわかって読む安心のワクワク感を。
1巻目「城跡の謎」から1年後、再びの夏休み。バラ戦争ごっこに勤しむカッレとアンデッシュ、エヴァロッタの白バラ軍は、赤バラ軍の<聖像>(ただの石ころ)を奪い<大草原>の中に建つ古い地主館に隠す。しかしアンデッシュが尋問に遭ったため隠し場所を変えようと地主館に向かったエヴァロッタは、大急ぎで走ってきた男に出くわした後、くしゃくしゃに丸められた借金証書と高利貸しのグレーンじいさんの死体?!を見つけてしまう。逃げたのは濃い緑色のギャバジンパンツをはいた男。エヴァロッタは唯一の目撃者として命を狙われる。<聖像>をめぐる攻防を続けながら、カッレの探偵としての知識とひらめきも冴えます。エヴァロッタに届いたヒ素入りのチョコレートを見破ったり、地主館で銃を持った殺人犯と対峙したり、本格的探偵小説のスリル感です。(P) 

綾瀬はるか「戦争」を聞く

 

綾瀬はるか 「戦争」を聞く (岩波ジュニア新書)

綾瀬はるか 「戦争」を聞く (岩波ジュニア新書)

  • 発売日: 2013/04/20
  • メディア: 新書
 

広島市生まれの綾瀬はるかさんが出演した、2005年戦後60年企画「ヒロシマ」と「NEWS23クロス」の表題シリーズ(2010~2012年放送分)を収める。実祖母から始めて広島、長崎、沖縄、ハワイ、そして東日本大震災後の岩手、福島でインタビューを行っている。綾瀬はるかと証言者の会話が中心で1つ1つは短く、放送の書き起こし程度のよう。でも、当時を生々しく伝える写真とその被写体本人による言葉なだけに、事実が迫ってくる。中でも、16歳で婚約者を亡くした女性が真珠湾を訪れ、69年間抱えてきた恋心や憎しみをほぐしていく過程をおったものは、子どもにとって遠い昔の「戦争」ではなく、自分にもある気持ちとして近く想像できるのではと思う。 (は)