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3.11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ 岩波ジュニア新書

 

震災後1年という極めて早い時期にこの本を出版した著者と出版社の姿勢に敬意を表したいと思う。あの3.11を福島で迎え、原子力発電所が爆発する映像を見てすぐさま避難。放射能測定器を入手し、自分で情報を集めるという行動力のある著者ならではの視点が活かされた内容になっている。まず、冒頭にに品川火力発電所福島第一原発だったら、として半径20キロ圏内、30キロ圏内を示した地図が出てくる。20キロとは23区全部、千葉県は市川あたり神奈川は横浜近くまでと見せられると、具体的にどんなに広い範囲が帰宅困難地域になっているかがわかる。著者がとりわけ憤っているのは、対応が後手後手にまわり、放射能被害予測システムSUPEEDIのデータが公表されなかったり、風向きによって被害状況が異なるのに一律の距離で帰宅困難地域を認定するという実態に即していない政府の対応だ。同時に、そんな中で住民が「政府が、テレビが言っているから」として自分で判断しなくなってしまっていることへの危機意識も強い。原子力発電への強い反発を表明しながらも、著者は物事が単純に善悪が判断できないことも述べている。これは、微量の放射能であってもできるだけ子どもを守りたいとして転居した家族と、地域に根をはりこの放射能量なら大丈夫と判断してとどまった家族が互いに非難しあう悲劇を見た経験からの発言でもあろう。単純ではないから、しっかりと考える人間になって欲しいとい著者の中高生へのメッセージは、未だに原発の再稼働が問題になっている現在ますます重要になっているといえるだろう。