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その魔球に、まだ名はない

 

その魔球に、まだ名はない

その魔球に、まだ名はない

 

 ゴードンは近所の誰もが認める名ピッチャーだ。たまたま通りかかったリトルリーグのコーチにスカウトされ、入団試験も楽々パス。だが、その扉は突然閉ざされる。なぜならゴードンは女の子で、女の子の体は野球には耐えられないというのだ! ありえない。時は1957年のアメリカ。公民権運動で揺れ、ソ連が宇宙開発に先行したことが大きな騒ぎになっていた。ゴードンはあきらめられない。大学で教えているママは、かつて自由を守ろうと自分は共産主義者ではないというサインを拒否して一度大学を追われている。だからこそゴードンを応援はしてくれるが、闘う難しさも良く知っている。折から、学校の課題で自分がアメリカ人のヒーローだと思う人物を調べる課題を出されたゴードンは、失われていたアメリカの女子野球選手の歴史を掘り起こそうと決意する。女の子だって野球ができると証明するためにも。一人、また一人と見つけては手紙を書き、会いに行く。そして女性である上に黒人でもあったためにさらに差別された選手さえいたこと、しかもそうした歴史がすっかり失われてしまったことに気付く。ゴードンの発表は、学校の枠を越えて社会にも反響を与えるが、それでもリトルリーグの壁は開かなかった(1974年まで制限は続いたとか!)が、自分のしたことが野球が好きな他の女の子を励ませたことを知るラストがうれしい。未だに社会での男女の格差の大きい日本の子たちにもおすすめです。