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11番目の取引(2020課題図書 中学生の部)

 

アフガニスタンを逃れ、いろいろな国を転々とした末にアメリカで難民として受入れてもらえたサミとじじ(サミの祖父)。二人の故郷の形見といえばアフガニスタンの民族楽器ルバーブで、じじはルバーブの名手だ。地下鉄構内で演奏して得られるお金は、二人の支えとなっている。なのに、じじがトイレに行き、サミがルバーブを持っていたときに、ひったくられてしまった。すっかり気力をうしなったじじ。サミはなんとかしたいが、どうすればいいかわからない。そんな時、学校で出会ったダンがサミのサッカーの技量に気付いて近づいてきた。ネット検索で、盗まれたルバーブが売られている店を見つけてくれるが、店では700ドルを要求してきた。なんとかしてお金を手に入れて取り返したい。ほとんど手持ちの物などないし、中学生ではアルバイトも無理だ。だが、同級生ピーターがサミのキーホルダーと自分のiPodと交換しようといったことがきっかけで事態が動きだす。iPodは壊れていたが、機械が得意のダンが修理してくれ、それを欲しがった子が自宅で不要なアンティークドールと取り替えてくれた。少ない手持ちの品を交換する中で、少しづつ資金を積み上げていく。そして、その過程でそれまでにサミがどんな運命をたどってきたかが、少しづつ明かされていく。わらしべ長者のように取引を積み重ねていくようすはスリリング。同時に、孤立していたサミは友人を増やしていくことになる。そしてたった一人の家族のじじに、自分のしようとしていることを打ち明けられない緊張感など、どんどん物語にひきこまれていく。アフガニスタン内戦の悲劇や、アメリカでの差別、まわりとの絆などキーワードはあるけれど、それを越えて、辛い過去を抱えながらも、新しく生きようとする誇り高く懸命な男の子サミが生き生きと描かれているのが魅力の物語。