児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

むこう岸

 

山之内和真は、成績は良かったが、運動神経はイマイチだし、同級生とは微妙に話が合わなかった。医師の父は、そんな和真に中学受験を勧め、猛勉強の末に私立名門校に入ったが、結局授業についていけず中学3年から公立に入りなおした。その学校で出会った佐野樹希は勝気な女の子。父が借金を残して死に、母親はまもなく出産したが体を壊した。病気がちの母と小さな妹を抱え、生活保護を受けているが、同級生にそのことで馬鹿にされて自ら体操着に「生活保護」と書くような子だ。樹希の救いの場になっているのはカフェ「居場所」。ここのマスターは、無料でいさせてくれる。樹希になついている中1のマルコは、離婚した父が黒人で外見からいじめられているが、おとなしく、言葉を話すことができなくなっていて成績は最悪。偶然和真を助けた樹希は、彼をマルコの家庭教師にしようと思いつく。始めて見ると、人に教えるのは不思議と楽しかった。だが、母の具合はますます悪化、高校を出たら就職しかないという未来に夢がみられない樹希は絶望的な気分になっている。そして高校受験でリベンジしろという父の圧力に和真は苦しむ。全く違う生活環境の二人が、少しづつ互いに理解しあっていく様子がよい。樹希が友人エマの社会学者の叔父のおかげで、生活保護でも進学のためならアルバイトで貯金ができることなどを知ることで未来に希望を持ち始め、生活保護は「投資だ」といわれてプライドを取り戻すようすはとても良い。ただ、同時に今後改善が期待できない受給者(例えば高齢者)のような有望な投資先とはいえない相手にも生活保護は必要。そしてむしろ和真のほうが父親とうまく意思疎通した解決の道が最後までうまく見えていない感じなのがちょっと気になる。がが、権利としての生活保護制度や、受給者が問題のある人間ではないことが自然に納得できる感じに描かれていて、かつ読みやすい感じがおすすめできる。