児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

風に向かっての旅

 

風に向かっての旅

風に向かっての旅

 

父さんは戦死、そして力を落とした母さんも死んでしまった。おまけに故郷はもうチェコに併合された。なにもかも無くしたベルントをお母さんの姉さんカルラおばさんが引き取ってくれた。二人は必死に国境を越えて、なんとかオーストリアに入ったが、電車は動かない。おばさんはウィーンに行くというけれども、そこで足止めをくらってしまった。気が強くて自分の意思を通してみせるカルラおばさん、そこに住んでいて仲良くなったポルディとニーナ。そしていつも追われているのに、ピシッと身なりを整えた不思議な魅力をたたえた男マイヤーさん。ロシア兵の姿や、森で見つけた死体、優しそうな善意の裏にある金のやり取り。見なくてもいいものを見せられながらも、どこかに旅立つあこがれに駆り立てられる主人公の姿が切ない。 

ごちそうさまのなつ

 

ごちそうさまのなつ

ごちそうさまのなつ

 

 森のはずれの空き地で畑を作る人間と遭遇したうさぎの家族。畑は網で囲われますが、うさぎにとっては下を掘れば出入りは簡単。網のおかげでいじわるなウッドチャックが入ってこられなくて大喜びです。おまけに、仕掛けられた罠にウッドチャックが捕まっていなくなります。人間がせっせと手入れをしてくれるので、畑ではおいしいものがたくさんできてうさぎたちは大喜び、人間はなんだか怒っているようですがうさぎたちは気にしません。怒りまくり、なんとかうさぎを追い出そうとする人間たちと、ひょうひょうと畑の作物を堪能するうさぎ一家の対比がなんともユーモラス! 少し長めだが、とぼけた雰囲気は高学年のよみきかせにも向きそう。

チャーリー・ムーン大かつやく

 

チャーリー・ムーン大かつやく (子どもの文学・青い海シリーズ)

チャーリー・ムーン大かつやく (子どもの文学・青い海シリーズ)

 

 夏休み、チャーリー・ムーンは、海辺のジーンおばちゃんの所へやってきた。2歳上のいとこアリアドニーも来ているジーンおばちゃんの家はびっくりショップをやっていて、おもちゃやカーニバル用品を売っている。近くにはコルネットーさんの占いとろう人形のお店。こちらはお城みたいな構えなのにお客さんはさっぱりだ。ある日ジーンおばちゃんは、海辺のホテルに滞在中のキャド夫人と出会って感激する。2人はかつて同じ劇場の衣装係とダンサーとして働いたことがあったのだ。そして同じくアクロバットをやっていたコルネットーさんと3人でなつメロショーを開くべく、チャーリーとアリアドニーも巻き込んでコルネットーさんのお店の一大改装を始める。新装開店となったお店は一晩でこれまでの1週間分を稼いだ。しかし翌朝お店が荒らされ、心当たりのあるチャーリーはアリアドニーと一緒に犯人たちに仕返しを計画する!さらにチャーリーは、キャド夫人の宝石の指輪紛失事件も解決し、子どもも大人もそれぞれに変化があってひと夏が終わる。
絵本作家の作品。表情豊かに物語る挿絵が楽しい。

靴屋のタスケさん

 

靴屋のタスケさん

靴屋のタスケさん

 

1942年初夏、小学1年生になったばかりのわたしは、新しく開店した靴屋のタスケさんの仕事ぶりに興味津々。店のガラス戸越しにのぞいているとタスケさんが招き入れ、ボロボロの靴を修理する様子を見せてくれる。今は、材料の皮が手に入りにくいご時世。でも、修行時代はお金持ちの街にいて、あるお嬢様の初めてのハイヒールを上等の赤い皮で作って喜ばれたとのこと。わたしは父親にねだって、タスケさんに赤い靴を注文する。神戸まで行って材料の皮を手に入れたタスケさんは、丁寧にていねいに靴を仕上げる。その靴をはいて七五三のお参りをしたわたし。しかし翌春、とうとうタスケさんにも兵隊の招集があり、靴屋は閉店。翌々春の空襲でお店も赤い靴も焼けてしまった。
時が過ぎてわたしは15歳になった。タスケさんのことも赤い靴のことも忘れていた。ある秋の夕暮れのこと。かつて靴屋があったところを通りかかると、タスケさんの働く姿が目に映り胸がキュッとなる。振り向かずにその場を立ち去ろうとするわたしを、赤い靴をはいた当時のわたしとタスケさんが踊りながら追い抜いて行くのが見えたようだった。
戦争が奪う何気ない日々の幸せと、成長とともに人が失ってしまうものを、短く静かに綴る。振り仮名があり低学年から読めるが、作品を味わえるのは4年生位からか。

生活図鑑

 

生活図鑑―『生きる力』を楽しくみがく (Do!図鑑シリーズ)

生活図鑑―『生きる力』を楽しくみがく (Do!図鑑シリーズ)

 

 衣・食・住にまつわる生活力を多岐にわたって簡潔にまとめ、「住」の章では防犯・防災対策についても触れる。

巻頭の漫画で、母親がしばらく不在にすることになり、小3、小5の姉弟と父親で家の一切をやることになるという設定がつかみとしておもしろいが、内容はかなり上級なものが多い。自分が主人公の暮らし、自立した生活力をと著者は語りかけるが、子どもにとっては生活するっていろいろ大変!!と思ってしまいそう。

というより大人でさえも、既製のものを買い、壊れたら買い換える(買った方が安い)暮らしに慣れてしまって、生活力が落ちていると実感させられるので、巻頭漫画のように大人と子どもが一緒に非日常の体験としてやってみた結果、生活力が少しずつ身についていくといいかもしれません。例えば、「超簡単でおいしい!しょうゆチャーシュー」(材料は豚モモ肉としょうゆだけ)を作ってみる、服の穴つぎをする、自転車のサビを取るなど、すぐに取りかかれて成果が嬉しいものからやってみませんか!

生活探検大図鑑

 

生活探検大図鑑―Challenge‐pal

生活探検大図鑑―Challenge‐pal

 

巻末目的別ガイドに<図鑑ページ>と<つくろうページ>とあるように知識を生かした体験ページが豊富にあり、自由研究のテーマ探しにおすすめしたい1冊。
「食」「衣」「住」の大項目の分け方が家庭科を意識させるが、知識と生活を結びつける展開に工夫がある。例えば「食」の魚介・海産物の項目を開くと、魚図鑑→エビ・カニイカ・タコ図鑑→魚でつくられた食べもの→はんぺんをつくろう→くんせいをつくろう→ほう丁図鑑→ほう丁の使い方(アジのおろし方を例に)・・・という流れが、絶妙でおもしろい。徹底的に「生活」密着なので、図鑑の魚は食用のみ。ほう丁の使い方で魚のおろし方を例にしているのも、基本的な使い方「押す・引く・たたく」をマスターすれば野菜や肉にもそのまま使えるから。「魚をおろす、というとむずかしい技術が必要なんじゃないか・・・でも、基本的な使い方を覚えれば、だれでもかんたん。」と、ページ冒頭の文章が誘い口調なので実際にやってみたくなる。
「衣」分野の冒頭は衣料品の分解図からで、スポーツ・シューズの部品の多さはプラモデルのようで驚き!また、縫い方の基本「まつり縫い」「半返し縫い」「ボタンつけ」が手持ちの小中学校の家庭科教科書ではどうもわかりにくいと感じているのだが、このくらいクローズアップしてこの角度ならわかりやすい!という写真にこの図鑑で出合えた。
巻末に、全国の生活関連博物館ガイド、目的別ガイド、テーマ関連ガイドを掲載。50音索引がないのは残念。

大千世界のなかまたち

 

大千世界のなかまたち

大千世界のなかまたち

 

子どもの頃から「人間ではない何かの生きもの」の存在を感じ、大人になっても親しくつき合っているというスズキコージ氏。それらを、特徴を捉えた愉快な命名と独特のタッチの絵で紹介する。
例えば、図書館の本の隙間に住んでいる「スキママン」。太ったスキママンがいると本が取り出しにくいという。(確かにいくら引っ張っても棚から取り出せないことがある。なるほどスキママンの仕業だったか。いえいえ、本当は本の詰め込みすぎ・・・ですが、そう考えるとおもしろい。)
鏡に映った自分の一部がちょっと違うことがあってよく見たら鏡の中に住む「カガミル」が完全にまねし切れていなかったんだとか。(鏡の中の自分をそんなによく観察したことなかったなあ。)
振り子時計のゼンマイが切れてしまい修理に出さねばと思っていたあるとき動き出し、よく見ると「フリコウ」がぶら下がって揺れていたとか。(これ!電化製品が故障して新しいのを買ってきたら古い方が一時的に動き出すことありませんか。我が家では、映らなくなったはずのブラウン管テレビが、薄型テレビが届いたとたんに復活して1年以上がんばって映っていたことがありました。)
この世界は人間のものだけではなく、たくさんの”なかまたち”がひしめき合って生きているのだと思うと、なんだか平和な気持ちになります。