児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

平安男子の元気な! 生活

 

平安男子の元気な!生活 (岩波ジュニア新書 930)

平安男子の元気な!生活 (岩波ジュニア新書 930)

  • 作者:川村 裕子
  • 発売日: 2021/02/22
  • メディア: 新書
 

 『平安女子の楽しい! 生活』の著者による男子編。またまた、古典のを用語を現代だったらこんな感じと巧みに表現してくれるので、なんだか平安男子が身近に感じられます。平安時代の貴族社会は行事が多かったのを「フェスティバルでイケてる男子とは?」と書かれると、見てると眠くなりそうな儀式ではなく、当時の人が儀式に感じていたワクワク感や、気合の込め方が感じられてきます。平安男子のオフィス事情やら結婚と恋やら、なんとなくのぞき見している感じでドキドキしてきます。そうか、平安時代も、みんな同じようにたいへんだったり頑張ったりしてたのね。よし、私たちも頑張ろう!と明るい気持ちになれる書き方がすてきです。 ただ女子編でもそうでしたが、ここでも登場するのはセレブ中心。著者はご病気をされたり大変だったそうですが、この楽しさでぜひ『平安庶民の ○○な生活』という庶民篇を見てみたいです。

彼方の光

 

彼方の光

彼方の光

 

 11歳のサミュエルは黒人奴隷の男の子だ。1859年のある夜、とつぜん老奴隷のハリソンに起こされて逃げるのだと言われる。サミュエルが赤ちゃんだったころ、よそに売られていった母代わりに育ててくれたのは、ハリソンと台所で働くリリーだ。でも、逃げるなんて大それたことをしてよいのか? 捕まったらどうなるのか? サミュエルはパニックを起こすが、ハリソンは容赦なく彼を連れ出す。追手をまき、伝え聞いた援助者を探しながら彼らは進む。カナダまでたどり着かなければ自由は望めない。金を要求するものもいれば、親切さをひけらかす者もいる。次から次へと援助者は変わる。今まで経験したことのない世界の中でサミュエルはどうすればよいのか、だれを信じて良いのかもわからなくなる。頼りはハリソンだけ。だが、そのハリソンが熱を出して倒れてしまった。親切な自由黒人の家でかくまわれるが、瀕死になってはじめて突然逃亡した理由を初めて教えてくれた。そしてやっと対岸はカナダという地までたどりついたのに逃亡奴隷を捕まえる賞金稼ぎに捕まってしまう。その時、サミュエルは思いがけない賭けに出る。それまで常に受け身だったサミュエルが自由のためにしっかりと足を踏み出す姿がとてもいい。助ける人たちが、必ずしも聖人ばかりでないところも説得力がある。それにしても、たとえ奴隷を人間だと思っていなかったとしても、どうしてこんなに残虐に扱えたのだろう? こうしたふるまいしかできなかった精神とは病んだものだと思うが、いまだ根本的に残る人種差別を考えると、自分の中にもそうした無意識の残酷さはないだろうかともおもわされた。歴史小説に送られる「スコット・オデール賞」受賞作。

貸出禁止の本をすくえ!

 

エイミー・アンは10歳。本が大好きなおとなしい女の子だ。ところがいつも借りていた大好きな『クローディアの秘密』が突然貸出禁止になってしまった。保護者が子どもに良くない本として何冊かの本を貸出禁止に申請してきたのだ。司書のジョーンズさんは、教育委員会で抗議をするから手を貸してほしいと言うけれど、いつでも何も言えないエイミー・アンには無理! 家でも妹たちのために譲っている。だけど『クローディアの秘密』を買ってもらい、他の貸出禁止になった本を友だちが持っていると知った時に、ふとひらめいた。貸出禁止の本を少しづつ集めて、お互いに読めるようにしようと。親友の弁護士志望のレベッカや級友のダニエルが協力してくれた。でもマービンは許せない。そもそもこの騒ぎを起こした保護者はマービンのお母さんなのだ。こっそりロッカーに隠した本は徐々に増え、利用者も増えてきた。どうやって管理したら良いのか悩んでいると、昔は本に袋をつけて、そこに入れた名前を書いた紙で管理していたと知り(ニュアーク方式)それで管理を始める。貸出禁止の本とバレないようにと偽の表紙までつけた。だが、ある日校長に見つかってしまった。いったいどうしたらいいの? エイミー・アンは思いがけないアイディアを思いつくのだが、直前でせっかくの準備を妹にダメにされ、ついに絶望して家出を決行した。さて、貸出禁止騒動の行く末は? エイミー・アンの思いがけない反撃方法と、さいごまでぬかりなく図書館のあり方(読者のプライバシー)を示す司書のジョーンズさん、そしてここであがった本が、本当に貸出禁止の対象になったことがある本だという解説の衝撃まで図書館員目線で読んでも大満足。だけど、常に何も言えずに自分の意見を飲み込んできたエイミー・アンが、大好きな本のために、少しづつ変わっていく様子が魅力。 

ミカンの味

 

 同じ中学で同じ映画部に入ったことから仲良くなった4人の少女。ダユンは成績が、とりわけ外国語が優秀だが、家では病弱な妹に親の関心が集中していて、自分のことはいつもあきらめるように暮らしている。ヘインは父親が知人にお金を持ち逃げされ、暮らしが急激に傾く事態に直面。母親はいくつも仕事を掛け持ちしながら家事もしっかりやっている。なのに、ヘインの進学の手配はすべて母親のせいにして、父は母にクレームばかり言うのが耐えられない。ウンジの両親は離婚し、今は母と祖母の3人暮らしでとても快適だ。だが、ウンジがいじめ被害にあった時、相手の父親は、ウンジの父と男同士の話がしたいとやってくる! そしてソラン。ごく平均的な家庭で成績も特にぱっとしない普通の子だ。この4人が同じ高校に行こうと誓いをたてるが、それぞれの家庭の親や先生には思惑がある。そして不審な電話による受験妨害も発生、はたして犯人は? とちょっとミステリータッチな雰囲気で物語が進む。タイトルは、4人が旅行に行った先でミカン狩りをして食べたミカンの味に感動するエピソードから、旅先のミカンは、なぜ美味しかったのか? メイクに励む韓国の中学生の生態にはびっくり(現在公認されているらしいですよ。日本の中学生は、ぜひ参考に)、受験制度も日本とは違う、だが、未来への不安と希望を抱えながら、友だちが欲しいと感じている思いは全世界共通。ショッピングセンターで試食を食べたり、化粧品のお試しをしまくったりしながらひっついて過ごす時間。無駄なようだけどそうせずにはいられない中学生のモヤモヤした感じ。日本の同世代の子だと、どう読むかな?

青の読み手

 

 舞台は中世の雰囲気の王国。ノアは孤児で、猫の親方と言われるあこぎな男の下で、貧民窟でネズミと呼ばれる雑用請負の仕事をさせられている。彼の面倒をみてくれていたやさいいロゼが行方不明になって以来、彼女を見つけ出したいと願っている。そんなノアに修道院から本を盗む仕事が依頼された。依頼主の男爵は不気味だし、ヤバイ仕事に決まっているが親方にはさからえない。しかもロゼの行方を代償に教えてくれるという。修道院に忍び込み、罠に陥るもなんとか無事に本を持ち出した。本を渡せば殺されるから駆け引きを、と思う間もなく男爵につかまったノア。そしてロゼそっくりなのに自分は王女だと言い張る強気の女の子を男爵の屋敷で会う。牢に閉じ込められたノアが出会ったのはなんと人間の言葉を話すネズミのパルメザン。男爵の実験で多くの仲間が犠牲になったが、彼は生き延びて逃げ出したのだ。二人は助け合うことにする。盗まれたサロモンの書は最大級の黒魔術の書だが、「青の読み手」と呼ばれる特別な人間にしかその本の字が見えない。ノアにはなぜかその文字が見え、本は男爵の前から消える。いったい何が? 王国の権力争いと、魔力をめぐる争い、それに対抗するノアとパルメザン。メリハリがはっきりした読みやすいファンタジーで楽しく読めるが、その分、想定を超えたドキドキは見込めないかな? 良心的な作品だと思う。

こわいオオカミのはなしをしよう

 

 マイケルは、パパにおはなしをねだる。怖いオオカミが登場して虹色の羽のにわとりレインボーを狙うおはなしだ。パパとマイケルのやりとりも楽しいのだが、同時に私は個人的にこうした設定が苦手。これを読むとき、どういう視点で読むべき? という気分になってしまうのだ。作者は実際に息子のためにこの物語を描いたとのことで、実際のやりとりの様子が反映されているのかなと思うし、親子のやり取りも物語事態もユーモラス。でも、こういう物語は大人目線の気がしてしまう。

ガラスの犬

 

 『オズの魔法使い』で有名なボームの短編集。ちょっと皮肉な調子を効かせた感じは、やややりすぎだったり教訓的と感じるところもあったが、空想力豊かでナンセンスな雰囲気は魅力。たまたま開けたトランクの中から海賊が飛び出してくる「屋根裏の海賊」などはこういう雰囲気のおはなしあるなぁと思うが、お金がないまま残された10歳の王子さまを、一番金持ちの女性と結婚させようと家来たちがオークションを開催して、意地悪そうなおばあさんが落札する「クオック王妃」など、読んでいてあきれてしまうような設定だ。やや訳文が硬い感じがして気になり、それが余計20世紀に入ってすぐ出たこの作品の時代がかった感じを強めているように思ったが、意図的?