児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

シンデレラはどこへいったのか—少女小説と『ジェイン・エア』

 

虐げられているが心優しく美しい少女が王子さまと出会うシンデレラ。このシンデレラとは違う道筋をたどって幸せをつかむ女性の物語『ジェイン・エア』。美しくなく、気性が激しい少女が、学問など自力の努力で自立し、対等の立場で男性と結ばれる。この物語が少女小説に与えた影響として、『若草物語』『リンバロストの乙女』『あしながおじさん』『赤毛のアン』『木曜日の子どもたち』で検証されている。納得させられる内容で、とても面白かった。そして、ふと思った、現在のラノベでもシンデレラ型とジェイン・エア型があるかも。『わたしの幸せな結婚』顎木 あくみ著は、継母と妹に虐げられていた娘が結婚で幸せになる(その後、力を発揮するところが違うが、力を発揮しても、控えめでつくす!)シンデレラ型で、こうしたパターンは量産されている。対していわゆる悪役令嬢モノは、ジェイン・エア型かも。主人公は美女だとしても否定される悪女顔で、かわいげがなくて勝気、追放されるのを見越して自立し、お金をもうけて自活するために頑張る。ラノベだと、その後、イケ面男性と結ばれるけど、相手もクセのある正統派王子ではないパターンが多い。などと妄想してしまった。物語の系譜の裾野は広い気がした。

こんにちはアンリくん

 

ローベルの絵がとても魅力的で、物語もひょうひょうとした感じで楽しい。たとえば「ダッドリーくんとおばあさん」では、ダッドリーくんが自転車でおばあさんにぶつかってしまうのだが、飛び降りてすぐにあやまると「べつにいいのよ」といって、おばあさんは素早くダッドリーくんの自転車に乗って行ってしまうのだ! まさかの展開がとても楽しい。だが、正直、活字はもう少し大きい方が良いと思ったのは老眼のせい? なんだか字が詰まって読みにくい感じがした。自分で読むとしたら2.3年生くらいかと思うが、この文字が詰まった感じはちょっと敬遠されるかも。そこだけ残念。

みどりいろのつりがね

 

プロイスラーと彼の作品『クラバート』の表紙画を描いたホッツィングのコンビによる絵本。イワンが畑で見つけたみどりいろの釣鐘は、美しい音色で村人たちを癒す希望の音色で鳴りました。うわさを聞きつけた皇帝は、すばらしい鐘をわがものとしようとしますが、鐘は重くなりどうしても動かせません。腹をたてた皇帝は鐘を破壊させます。しかし、皇帝の去った後、そこには小さな緑色の鐘がたくさんあり、みんなをその鐘をわけあいます。昔話のような展開で、中学年以上の読み聞かせでも使えそう。絵の魅力も大きい。

葉っぱの地図

 

12歳のオーラは、かあさんが死んでからもたった一人で暮らしていた。母さんが教えてくれたのは薬草の知識。そして植物たちはオーラにさまざまな事を教えてくれた。村の人たちの助けに背を向けるようにして。だが、葉っぱに黒い斑点があらわれる。村人にも病人が出始め、お屋敷の主ハイドンは病の原因は植物だといって植物を焼き払おうとする。川で交易をしているブルーコートの一人イドリスは、兄が病にかかったと言ってオーラに助けを求めてくる。そしてハイドンの姪アリアナは、かつてはオーラの遊び友達だったが、母親が死んでからはすっかり疎遠になっていた。母親は病の治療法を知っていたに違いない、その手がかりは川の上流にある。イドリスもまた兄から上流に病のヒントがあるときかされていた。この3人はブルーコートの船に密航して川の上流に向かうことになる。だが途中で3人は見つかる、そしてオーラは誰のことも信用しなかった。母親の思い出にしがみつくだけだったオーラが、自分の無力さに気が付き、ついに3人は助け合うことになる。人々を蝕む「葉っぱの地図」と呼ばれる病の原因と治療を見つけ出していくラストはほっとするが、それよりも安心させられるのは、オーラのかたくなさがほどかれていくところかもしれない。私たちは、なにかと意固地ですからね。

モノクロの街の夜明けに

 

1989年のルーマニアはチャウシェクス独裁体制下にあった。食料は配給の列にならばなければ手に入らない、電力は不足気味で突然の停電もある。17歳のクリスチャンは、突然スパイになるように命じられる。アメリカ大使館に勤める母を迎えに行って、大使のダンと仲良くなったことが問題視されたのだ。ことわれば何をされるかわからない、命じられた通りにすれば病気の祖父の薬をくれるという。同じ高校のリリアナへの憧れが、思いがけず進展するが、その喜びもつかぬま、二人でこっそり飲んだコーラが密告され、リリアナからスパイよばわりする。だれがスパイかわからない緊張の中で、親友だったルカさえ信じられなくなるクリスチャン。自由へのあこがれを教えてくれた祖父、その言動におびえきっている母。そんな中、密かにきいたラジオから、周りの国がソ連の支配を離れ、自由を手に入れていった。かすかに希望が芽生えた矢先、祖父は秘密警察に虐殺される! 国民の10人に1人が密告者だったという追い詰められた中で、誰を信じればいいのか? 自分自身さえ信じられなくなる切迫した中で、ついに蜂起がはじまる。立ち上がった民衆への軍の発砲の中で、倒れたルカ。逮捕されるクリスチャン、リリアン。ついにチャウシェクス政権を倒すが、その後もすべてが解決したとはいえないことが最後にわかる。こんなにも最近まで、これほどひどいことがあったことを知らなかったが、世界にはまだこうした国がまだあることを忘れたくないし、こうした国にしてはいけない。

リックとあいまいな境界線

 

『ジョージと秘密のメリッサ』続編。リックは内向的な男の子だ。小学校の時から仲がいいジェフと、中学に入ってからもつるんでいる。だが、ジェフの乱暴で差別的な言動はいやでたまらない。そして、自分が他の人と違うような不安を感じ始めている。まわりや父さんは女の子のことをいうけど、女の子が気になるという気持ちが理解できないのだ。小学校の時いっしょだったジョージは、中学に入ったと同時にメリッサとして女の子になっていた。LGBT+について話し合うレインボークラブに思い切って行ってみるが、自分でも自分のことがわからない。ジェフにバレてからかわれるのも嫌だ。父さんはリックがオクテなだけだという。そんな中、中学になっていやいや始めたおじいちゃんの家の訪問で、思いがけずおじいちゃんと気が合うのを発見。大切な悩みの相談相手になる。自分にとって大切なことが何かを気が付き、ジェフから離れて歩き出すリック。でも敵役というべきジェフ君。なせこういう子になってしまったのだろう。ジェフの母親はジェフの態度を間違っていると思っているが、影だけみえる父の問題がありそう。ジェフ君のことも、もう一歩踏み込んでほしかったようにも思う。

きりこについて

 

極めつけのブスに生まれついたきりこは、両親から常にかわいいと言われ(美形の両親は本気でそう思っていた)、自分はかわいいと確信し、自信をもってまわりを巻き込む女の子として成長していった。ヒラヒラの服と顔とのギャップに、周りの親たちは絶句! 思わず我が子に「あの子とは仲良くしてあげなさい」と口走ってしまい、みんなの中心で君臨する。小学校の体育館裏で拾った黒猫のラムセス2世は、猫を理解してくれるきりこの絶大な支持者だ。だが、小学校5年の時に、初恋のコウタ君に「ブス!」と言われ、周りは突然きりこがブスだと気づいてしまう。だが、きりこにはわからない。きりこは、ただきりこなのだ。悩んで引きこもったきりこは、ある日覚醒する。ド派手な服を着て男の子と遊びまわっているちせちゃんが、ある日レイプされたくやしさを訴えるのに共感する。正直に自分を見つめるきりこがたどりつくのは? テンポよく、何ともこきみのいい楽しい物語。