児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

源氏物語の教え もし紫式部があなたの家庭教師だったら

 

 

なんと源氏物語を女性が生き抜くための実用書として解説しているのだが、これが本当にその通り!と共感できる内容になっているところがすごい。平安の姫君として、どうすればうまく生き抜けるか? 身分社会の差別の中で、ただ美しいだけだと天皇に愛されても、まわりからねたまれイジメで死ぬとこまで追い込まれる。通い婚の制度の中、性のことをよく知らないのに初体験に追い込まれたり、身分の高い男にセクハラされたり、遊べれたりしかねない。女だって流されずプライドを持って、自分を大切に生きて、決断する時にはきちんと決断しないと幸せになれないよ、と物語で語っていると、具体的に紫の上や藤壺中宮の行動をもとに解説している。さらに、浮舟の流されて生きる生き方にダメ女の姿を書きながら、その浮舟がついにしっかりと尼になるという自己主張を貫いてやっと平安を得る点など、読んでいてとても納得した。いまだに生きにくい女性にとって、こうした解説書は貴重。中学生では難しいかもしれないが、高校生くらいにはぜひ読んでほしい。 

銀をつむぐ者下

 

銀をつむぐ者 下巻 スターリクの王妃 (下巻)

銀をつむぐ者 下巻 スターリクの王妃 (下巻)

 

ミリアムは、召使としてつけられた3人を味方につけ、部屋から銀貨を運び出して減らすという方法で部屋内の銀貨すべてを金とするという約束を果たした。イリーナは公爵の父の助けを借りて王の対抗勢力を抑えるための手配を成し遂げる。そして終わらない冬を終わらせ、国民を飢えから救うためにもスターリク王を倒そうと心に決めた。そしてミリアムは気づく。スターリクが渇望する金とは太陽の光であり彼らが金をため込むことで冬の勢力が増すと。ついに王の魔物とスターリク王の対決は成功。一度はスターリク王は牢につながれ、春が来る。だが、王の魔物がスターリクを飲み尽くせば次に来るのは何か? そしてミリアムには女王としてスターリクの自分の民を守りたかった。単身スターリク王を救いに向かうミリアムは人間界を侵さないという約束のもとに彼を救う。イリーナは王の魔物をスターリクへと連れ出す。二つの世界の境界の家を守るワンダの助けで、スターリクとミリアムは炎の魔物を撃退した。見事に民を守り抜いたミリアムにスターリク王はあらためて求婚する。力をそがれて宮殿に戻った炎の魔物とイリーナは対決するが、すべての民を、そして王を守るために言葉で魔物を永久に追放してのけた。ミルナティウス王とイリーナの物語もそこから始まる。美しさではなく知性と意志で、愛と自分の場所を手に入れる2人の娘と、その二人をしたから支えるようなワンダの力強さが魅力。物語の構成が隅々まできっちりとしているのがたまらない。 

銀をつむぐ者 上

 

銀をつむぐ者 上 氷の王国と魔法の銀

銀をつむぐ者 上 氷の王国と魔法の銀

 

ミリエムは金貸しの娘だが、父は取り立てが苦手で家は困窮。母が具合が悪いのにろくな食べ物もない。ミリアムは父の代わりに金の徴収に歩く。公正に、きちんと仕事をしているだけなのに両親は悲しげ、だが適切な仕事で着々と利益をあげる彼女を、街に住む金貸しである祖父は認めてくれた。ミリアムは借りた金を返せない貧農の娘ワンダを助手にする。仕事で借金を返してもらうことにしたのだ。ワンダにとってこれは救いだった。母親の死後アル中になった父親は、金のためにワンダを売るところだったのだ。ミリエムの家では食事が食べられ、賃金も渡してくれる。だが、異界の者スターリクがミリエムに目をつける。スターリクの王は、ミリエムにスターリクの銀貨6枚を渡し、金に変えろと命じた。ミリエムは宝石職人にその不思議な銀を渡して指輪に加工し金貨10枚を稼いだ。次の銀貨60枚を首飾りに、最後は小箱いっぱいの銀貨を王冠に加工して金貨にした彼女を、スターリクの王は女王すると言い自国へ拉致する。スターリクの世界では、誓約が一番重んじられるのだ。一方、指輪と首飾りと王冠は公爵が娘イリーナに与えられた。見栄えもせず、嫁ぎ先を見つけるのが難しいようなイリーナは、これらの品を身に着けたとたん、他の人間を魅了する力を手に入れ王ミルナティウスに求婚される。だが、王の中には火の悪魔が住み着き、夜になるとイリーナをむさぼろうとする。イリーナは祖母から流れるスターリクの血とスターリクの銀で作られた宝飾品の力で、鏡を抜けてスターリクの国に逃れた。イリーナは王に現実に対処しなくてはならないと説得し、対処する方策を考え始めた。一方、ミリアムが拉致された後の家を支えたのはワンダだが、父は、酒のためにワンダを酒屋の息子と結婚させようとする。酒屋はワンダが稼げることに目を付けたのだ。拒否すると父親は怒り狂って殴りかかり、弟のセルゲイとステファンが止めようとしたが、はずみで倒れて死んでしまった。父殺しとしてワンダとステファンは逃亡を決め、幼いステファンをミリアムの両親にあずけた。氷の国で、王を逃れてきたイリーナと出会ったミリアムは、自由を手にするために、王の魔物とスターリンの王をぶつけようと計画を練った。スターリン王を連れ出すために、ミリアムは3日で3つの部屋いっぱいの銀を黄金に変える約束をしたが、それは不可能なチャレンジだった! 

長い冬

 

ローラの物語青春編1巻目。今年のコロナウィルスによって引き起こされた先の見えない不安と、できることを続けた生活を思いながら読みました。
ローラたちにとってのそれは、長く厳しい冬でした。9月のいつもより早い霜から始まったローラ13歳の冬は、翌年の4月までおよそ8か月間も続いたのです。くり返し襲ってくる猛烈な吹雪。町に物資を運ぶ汽車が止まり、6人家族を養う食料やストーブの薪はまたたく間に底をつきます。父さん、母さんは知恵と工夫をこらして暮らしと命をつなぐのです。干し草を固くよじった棒を薪の代わりに。種小麦をコーヒーひきでひいてパンを焼く。クリスマスにはささやかな物を贈り合い、吹雪に負けないように歌って心を奮い立たせる。それでも「寒さと暗闇と家事とぱさぱさの黒パンと吹きまくる風」しかこの世にないのかと思われる日々。ある夜、ローラが耳にしたポタポタと垂れる水滴がその終わりを告げてくれます。ようやく迎えた春、5月のクリスマス祝いのなんと幸せなこと!
あとがきにあるローラの言葉のように、小さな日常の喜びを幸福とし苦しい時にも元気でいて、新しい年がよい年となりますよう祈ります。 (P) 

うんがにおちたうし

 

 めうしのヘンドリカは、まきばの暮らしにあきあきしていました。1年じゅう草を食べホフストラおじさんのためにミルクを出し、ただただそのくり返し。荷車をひく馬のピーターから町の様子を聞いてうらやましくてたまりません。ある日ヘンドリカは、夢中で草を食べるうち運河に落ち箱舟で流されてしまいました。流れ着いたのは憧れの町!!石だたみの道や段々屋根の家にチーズ売りのおじさんたちの色とりどりの麦わら帽子。みんなピーターから聞いたとおりです。ヘンドリカは麦わら帽子の味見をして大満足。ちょうどチーズを売りに来ていたホフストラおじさんに見つかって、無事にまきばの家へ。その後ヘンドリカはひらひらリボンの麦わら帽子をかぶってごきげんな毎日でした。
オランダ生まれオランダ育ちのスピアーが、田舎や町の風景を存分に描いています。線の細いペン画ですが、文章からしっかりイメージできるので読み聞かせにも使えます。 (P)

めうしのジャスミン

 

ある日めうしのジャスミンは、素敵な羽飾りのぼうしを見つけました。頭にのせて池の水に映してみるとよく似合うこと!毎日池をのぞいてみてはうっとりし、眠るときもかぶっています。ほかのめうしや馬、ひつじなど仲間たちに笑われても平気です。動物たちはだんだんジャスミンのことがうらやましくなってきて、納屋で見つけたたくさんの古いぼうしをそれぞれにかぶり始めました。すると今度はジャスミンが、ぼうしをかぶらなくなり…。
人と違うこと、自分らしくいることを誇らしく貫いためうしのジャスミン。『はなのすきなうし』とは違って、こちらは農場の女王さまになるというラストです。 (は) 

うれし たのし 江戸文様(月刊たくさんのふしぎ2021年1月号)

 

江戸文様について、年中行事や節句、四季折々の自然といったテーマごとに紹介。節句のいわれや町人の暮らしぶりもわかる。権力者と庶民の着物の歴史を文様の視点から比べたり、古来中国から伝わった文様が日本独自の江戸文様に変遷してヨーロッパの「ジャポニスム」ブームを担ったことにも触れたり、文様文化を簡潔に総合的に説明している。某大ヒットアニメの登場人物たちが伝統文様の衣装を着ていて、興味を持つ子がいるかもしれません。  (は)