児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

いのちの木のあるところ

 

現在世界遺産に登録されているデイヴリーの大モスクと治癒院。小さな地方の街で、こんなにみごとな建設ができたのはなぜか、建設を命じた王マフマドシャーと王妃トゥラーンについてもほとんど詳細はわかっていない。だが、実はこんなことがあったのかも、と作られた物語。トゥラーンは、姉たちのような美貌はないが、物語が大好きで、自由な心をもつ3番目の王女。政略結婚を強いられるのが嫌だったが、姉の結婚式で出会ったアフマドショーと不思議な縁が重なり結ばれる。民を大切にする王は、王宮よりも、みんなが集うモスクを建設しようとし、トゥラーンは子どもの頃知り合った優れた石工フッレムッシャーを起用したいと願う。折からトルこの王宮では跡目争いが勃発、モンゴル軍の襲来もおこりフレムッシャーたちの石工の街も壊滅。戦争から街を守りながら、みんなの心の支えとなるモスク建設を進める物語。二人の姉の嫁ぎ先が対立し、争う悲劇、戦争で家族を失う者たち、歴史の流れの中で、まっすぐに生きようとする登場人物たちの姿が、とても気持ちよく読める。厚い本だが、読みやすく、本好きな子に喜ばれそう。

つくられた心

 

近未来、理想教育モデル校が誕生する。防犯カメラ、防犯用収音マイクに加え、高度なアンドロイドが「見守り係」として紛れ込む。ミカは、高倍率の中で学校に入学できたことがうれしいが、クラスにアンドロイドが紛れ込んでいると思うと漠然とした不安に駆られる。表立ってはだれも言わないが、疑心暗鬼の中で、密かにアンドロイド探しが始まる。誰も彼も微妙に怪しい。と、いうあたりで正直アンドロイドはこの子では? と思ったが、さいごまで明確には明かされない(とはいえ、たぶん私の推理は当りだと思うが)。このきちんと明かさない点は読者にとって不満だと思う。しかも、ラストを人類の未来への不安にもっていったけれど、その前に教室のことをなんとかして欲しかった。面白そうな出だしだっただけに残念。

くまのピエール

 

おもちゃやで騒ぎを起こしたくまのクローネは、ちょうどそこにきた女の子スティーヌに、2クローネ(40円位で)てひきとられました。大好きなスティーヌとピエールは、いつでも一緒にあそびますが、ピエールは、石をじゃがいもとまちがえたり、お月さまを2銀貨とまちがえておいかけたり、初めて見た雪であそんでいるうちに雪玉になっちやったりと、次から次へと大騒動をひきおこします。読んであげれば5歳くらいから楽しめそう。オルセンの挿し絵は、いわゆるかわいい絵ではないのに、なぜかとっても魅力的。一度見たら、他の絵では納得できなくなりそうです。こぐま社さんは、ロングセラーで売ってくださる出版社さんですので、ぜひ、この作品も息長く販売して欲しいです。

住所、不定

 

フィーリックスは、まもなく13歳。ママのアストリッドと暮らしている。以前はおばあちゃんの家でみんな一緒に暮らしていた。だけどおばあちゃんは死んでしまった。そこからトラブルが始まる。おばあちゃんの家を売って買ったマンションは欠陥が見つかり、安く手放すしかなかった。ママの仕事もなくなる。アパートに移り、次は地下の部屋に移ったけれど、仕事は見つからず、家賃が払えずに追い出されてキャンピングカーで暮らし始めることになった。もちろん「一時的な事」だった。ママは仕事についてもなかなか続かない。落ち込むと起きられなくなるんだ。お風呂やトイレが恋しい。そしてちゃんとした食事も。行きたかったフランス語が履修できる中学に進学でき、昔の親友ディランと再会。まじめ一直線だけどなぜか気になるウィニーというガールフレンドもできた。だが、ママの就職はいつまでもうまくいかない。気づいたら、ママがスーパーで万引きするのを見てしまった。誰かに助けてもらいたい。でも、そんなことをしたらママと暮らせなくなる。雑学が得意で記憶力がいいフィーリックスがつかんだチャンスは、クイズ出場。優勝すれば2万5千ドルの賞金が手に入る。そうすれば家賃が払えるようになって解決するはず! 少しづつ状況が悪化し、徐々に抜け出せなくなるフィーリックス。ふつうにご飯が食べたい、お風呂に入りたいというささやかな願いを持ちながら、誰にも知られてはいけないという緊張感がが高まっていく。適切に助けを求める勇気! 大切にして欲しいと思います。

壁抜け男 エーメショートセレクション

 

ちょっと皮肉な雰囲気も漂わせる短編集。中高生向き。「諺」は、DVっぽい父親と、それにおびえつつも慕う息子リシュアンの向田邦子っぽい物語。偉そうにしているパパ、実は息子が同情して気配りしているのかもよ! です。「工場」は、死にかけている息子を工場に働きに出させなければならない家族の物語。少しでも休んだり止まったりすれば飢えて破滅するギリギリの状況は現在にも通じる? 「七里のブーツ」は、古道具屋の店先にある七里ブーツへの憧れ。貧しさの極地でも夢見る力は残ります。「執行官」差し押さえを生業とする執行官が、天国行のために善行をはじめるけれど・・・。「政令」突然、政令で前後に時間が飛んだはずだったのに、過去に迷い込んでしまう男。「壁抜け男」突然壁をすり抜ける力を得た結末は? 気になるタイトルから読んで楽しみたい。

ねこ学校のいたずらペーター

 

原著は1933年出版のオーストリアのロングセラー。ちょっと古風だが、こねこのペーターが初めて学校に行く張り切る感じや、粘土のネズミを間違えてたべてしまったりの失敗。そして自分でネズミを捕まえた誇らしさなど、小さい子に素直に楽しめる作品。ちゃんとねこの設定になっているところが良い。

きみが微笑む時

 

世界の人々の笑顔の写真。それは、貧しくて子どもでも働かなければならない国や、内戦がある地域でも見られる笑顔。外部から来た人間が、悲惨だと顔を曇らせるような地域でも笑顔はある。それは、誇りと希望。かわいそうな地域、とだけ思ってはいけないことを自戒したい。